「ASEANとオセアニアは、まとめて新興市場として扱えばいい」——そう考えて計画を立てたものの、本当にひとくくりにしていいのか、迷ったことはないでしょうか。
答えは、半分正解で半分違います。検索エンジンシェアはASEAN各国がGoogle9割超でほぼ足並みを揃える一方、豪州は検索市場そのものより規制制度の先進性で世界の注目を集めています。この記事は、ASEAN・オセアニア向けの展開を検討しているWeb担当・マーケティング部の方に向けて書きました。
扱うのは、ASEAN主要6か国(シンガポール・インドネシア・タイ・ベトナム・フィリピン・マレーシア)の市場実態と、オセアニアの規制動向です。Statcounterの実測データと豪州政府の公式発表にもとづき、図解と会話をはさみながら整理します。
こんなふうに調べていませんか
- ASEAN諸国はAI検索対策、Googleだけ見ていれば十分なのか知りたい
- 「ASEAN=モバイルファースト」という通説が、本当かどうか確かめたい
この記事を読み終えたときに手に入るもの
- ASEAN6か国のGoogleシェアを、実測データにもとづいて説明できるようになります
- ベトナムに現地エンジンが存在する理由と、その扱い方が分かります
- 豪州の規制動向が、他のASEAN諸国とは別軸の論点であることを理解できます
結論30秒でわかる、この記事の結論
- ASEAN主要6か国は、フィリピン90.3%からタイ99.58%まで、6か国全てでGoogleが9割を超えています。
- 唯一の例外はベトナムで、現地生まれの検索エンジンCốc Cốcが3.62%のシェアを維持しています。
- 「ASEAN=モバイルファースト」という通説も、Statcounterのトラフィック実測では単純に言い切れない結果が出ています。オセアニアは豪州の規制の先進性が別軸の見どころです。
この記事では、あるBtoB企業のマーケティング部の高梨課長・大森部長と、AIO/SEOの専門家・本誌監修である鈴木さんの会話をはさみながら進めます。
- 高梨課長(マーケ課長)— 「実務として、どこに注意すればいいか」を聞く役
- 大森部長(マーケ部長)— 「通説を鵜呑みにしていいのか」を聞く役
- 鈴木さん(AIO/SEOの専門家・本誌監修)— 答える役
01ASEAN・オセアニアのAI検索対策は、まとめて「新興市場」って言っていいんですか?
大森部長鈴木さん、ASEANとオセアニアは、まとめて「新興市場」というくくりで捉えていいものなのか。
鈴木さん実は、そこは半分正解で半分違うんです。検索市場の構造と、規制の話は分けて見る必要がありますよ。
本稿でいうASEAN・オセアニアとは、Googleが圧倒的なASEAN主要6か国と、独自の規制で先行する豪州を指します。検索エンジンシェアで見ると、ASEAN各国はGoogle9割超でほぼ足並みが揃っています。一方、豪州が世界的に注目される理由は市場シェアではなく、ニュース対価制度という規制の先進性にあります。
つまり、「検索市場の構造」で見ればASEANは一枚岩に近い一方、「規制」という軸で見るとオセアニア(豪州)はASEAN各国とは全く別の論点を持つ地域だといえます。この2つの軸を分けて理解することが、この記事の出発点です。
ASEAN各国は個別のプロファイル記事の整備が進んでおり、インドネシア・タイ・シンガポール・ベトナム・フィリピン・マレーシアの6か国全てを本メディアで個別記事として扱っています。詳細は別記事『インドネシアAI検索の成長条件』『タイAI検索の集中市場』『シンガポールのAI検索統治』を参照してください。
この章のまとめ
検索市場の構造はASEAN全体でほぼ共通、規制の話は豪州だけ別軸。この2つを分けて考えると、地域全体が見渡しやすくなります。
02ASEAN6か国のGoogleシェアって、AIOの前提として実際どれくらい違うんですか?
高梨課長「Google9割超」とはよく聞きますが、6か国とも同じくらいの数字なんでしょうか。国ごとの差も知っておきたいんですが。
鈴木さん数字で並べると、6か国それぞれに違いがあるのが見えてきますよ。
Statcounterの実測データ(全プラットフォーム合算)による、ASEAN主要6か国の検索エンジン市場シェアは次のとおりです。
| 国 | 2位 | 3位 | |
|---|---|---|---|
| タイ | 99.58% | Bing 0.36% | DuckDuckGo 0.02% |
| ベトナム | 95.59% | Cốc Cốc 3.62% | Bing 0.44% |
| マレーシア | 93.31% | Bing 4.06% | Yahoo! 1.68% |
| インドネシア | 93.65% | Bing 2.93% | Yahoo! 2.07% |
| シンガポール | 92.98% | Bing 3.16% | Cốc Cốc 1.07% |
| フィリピン | 90.3% | Bing 6.16% | Yahoo! 2.85% |
ASEAN6か国は全てGoogleが90%を超えており、東アジア(中国2.28%〜台湾81.88%)と比べて市場構造が単純です。 ただしシェアの絶対値には幅があり、タイの99.58%からフィリピンの90.3%まで、約9ポイントの差があります。フィリピンとマレーシアはBingが2位につけ、他地域よりBingの存在感がやや強い点も特徴です。
東アジア各国との構造対比は、別記事『東アジアAI検索比較』を参照してください。
この章のまとめ
ASEAN6か国は全てGoogle優位ですが、絶対値には幅があります。特にBingの存在感は国によって差があります。
03ベトナムだけ、AI検索で現地発のエンジンが残っているって本当ですか?
高梨課長ベトナム向けの展開を考えているんですが、Cốc Cốcという名前をよく見かけます。これは無視できない存在なんでしょうか。
鈴木さんはい、ASEAN6か国の中で唯一、ベトナムだけが例外的な市場なんですよ。
ASEAN6か国の中で唯一、Google以外が3%を超えているのがベトナムです。現地発の検索エンジン・ブラウザであるCốc Cốcが3.62%のシェアを保持しています。
興味深いことに、Cốc Cốcはシンガポールでも1.07%のシェアが観測されています。ただし越境利用の実態や理由については、本稿執筆時点で一次情報を確認できていません。他4か国(タイ・マレーシア・インドネシア・フィリピン)のシェア上位にはCốc Cốcは登場せず、ベトナム市場に固有の存在である点は変わりません。
この章のまとめ
Google以外が3%を超えるのは、ASEAN6か国でベトナムだけです。同じCốc Cốcがシンガポールでも観測される一方、他4か国の上位には出てきません。
04Cốc CốcのシェアはNaverやBaiduより小さいのに、AI検索対策で無視できないんですか?
Cốc Cốcのシェアは韓国のNaver(43.68%)や中国のBaidu(47.44%)と比べると小さな数値です。それでもASEAN域内で唯一Googleに次ぐ独自エンジンが一定の存在感を保っている国という点で、ベトナムは域内の例外的な市場です。ベトナムの詳細は別記事『ベトナムAI検索の二層構造』で扱っています。
この章のまとめ
ベトナムはASEANで唯一、現地エンジンが一定のシェアを保つ例外的な市場です。
05「ASEAN=モバイルファースト」は、AI検索対策の前提として本当ですか?
大森部長ASEANといえばモバイルファーストという印象があるが、それを前提に施策を組んで大丈夫なんだろうか。
鈴木さん実は、そこは実際のデータを見ると、通説どおりとは言い切れない結果が出ているんですよ。
ASEANは一般に「モバイルファースト」市場と語られます。ただしStatcounterのトラフィック実測(ページビュー集計)では、この通説と異なる結果が出ています。
インドネシアはデスクトップ61.86%・モバイル37.82%・タブレット0.32%です。フィリピンはデスクトップ54.04%・モバイル44.99%・タブレット0.97%で、いずれもデスクトップが過半数です。世界全体ではモバイル51.51%・デスクトップ47.12%・タブレット1.36%とモバイルが優位であり、対照的な結果です。
この数値は、Statcounterがトラッキングコード設置サイトのページビューを集計する方法論に起因する可能性があります。 人口ベースのインターネット利用者調査(各国政府統計等)との突合は、本稿執筆時点で確認できていません。
この章のまとめ
「モバイルファースト」という通説は、Statcounterのトラフィック実測では単純に言い切れません。
06ASEANの多言語という論点は、AI検索最適化でどこまで効くんですか?
モバイルかデスクトップかという話より、多言語のほうが構造的な事実です。6か国の多くが、複数の主要言語を抱えています。
- シンガポール — 英語・中国語・マレー語・タミル語の4公用語
- マレーシア — 公用語はマレー語のみだが、英語・中国語・タミル語も広く通用する
- フィリピン — フィリピノ語・英語の2公用語
ここで効いてくるのは、コンテンツを何語で用意するかという判断です。単一言語(特に英語のみ)で揃えると、各国の主要言語で検索した読者の意図に届きません。AI検索で引用される機会も、その言語の分だけ取りこぼします。
マレーシアの詳細は別記事『マレーシアの多言語AIO』を参照してください。
この章のまとめ
単一言語(特に英語のみ)のコンテンツでは、各国の主要言語での検索意図とAI検索での引用機会を取りこぼします。対象国の公用語・使用言語は、先に洗い出しておきます。
07オセアニアの豪州は、AI検索の論点として何が特別なんですか?
大森部長豪州は検索シェアだけなら他のASEAN諸国と同じような数字なんだろう。それでもわざわざ別枠で扱う理由は何なんだ。
鈴木さん豪州が注目される理由は、市場シェアではなく規制の先進性にあるんですよ。
豪州は検索シェアでGoogleが88.04%を占め、ASEAN各国と同様Google優位の市場です。豪州が世界的に注目される理由は市場シェアではなく、ニュース対価制度の先進性にあります。
2021年施行の「News Media Bargaining Code」に続き、新制度「News Bargaining Incentive」の法制化が進んでいます。AI企業を対象に含めるかが焦点です。大規模なデジタルプラットフォームがニュース出版社と商業契約を結ばない場合に賦課金を課す仕組みで、研究者らは対象に生成AIシステムを含めるよう政府に求めています。
制度の詳細な設計と最新の動きは、別記事『豪州のAI検索とニュース対価』で解説しています。オセアニアはこの豪州の規制動向が、地域全体のAI企業対応を占う試金石になっている点が、ASEAN各国とは異なる特徴です。本稿では公開データが豊富な豪州を中心にオセアニアを扱っており、他の島嶼国・NZ等は対象外としています。
この章のまとめ
豪州はGoogleシェアの水準こそASEAN各国に近いものの、ニュース対価制度という別軸で世界の先進事例になっています。
08ASEAN各国と豪州のAI検索を1枚で並べると、どう見えますか?
ここまでの内容を、2つの軸で整理してみます。横軸を「Googleシェアの集中度」、縦軸を「規制・現地エンジンの存在感」とすると、各国・地域の立ち位置がはっきりします。
タイはGoogleシェアが極めて高く、規制・現地エンジンの存在感はほとんどありません。ベトナムはGoogleシェアは高いものの、Cốc Cốcという現地エンジンの存在感があります。豪州はGoogleシェアの水準こそASEAN各国と近い一方、規制の先進性という軸で突出しています。
こうして1枚で並べると、「Googleシェアが高い=対策がシンプル」とは限らないことが見えてきます。ベトナムと豪州は、それぞれ別の理由でGoogle一辺倒の対策では足りない市場です。市場シェアの数字だけを見て安心してしまわないよう、注意してください。
この章のまとめ
Googleシェアの高さと、対策の単純さは別の話です。ベトナムは現地エンジン、豪州は規制という、それぞれ別の理由でGoogle一辺倒では足りません。
09日本企業が、ASEAN・オセアニアでAI検索最適化を進めるとき、押さえるべきことは?
高梨課長ここまでの話を、うちが実際に展開するときのチェック項目としてまとめてもらえますか。
鈴木さんもちろんです。国ごとに確認するポイントが違うので、3つに整理しますね。
ASEAN・オセアニアへの展開にあたり、日本企業が押さえるべき実務ポイントは次の3点です。
展開先に応じて、この3つを確認します
進出予定国のGoogleシェアを個別に確認する
ASEAN域内でも90.3%(フィリピン)〜99.58%(タイ)まで幅があり、国ごとのBing・Yahoo!の存在感を点検します
ベトナム向け展開ではCốc Cốc向けの技術要件を個別に検討する
Google向け対策だけでは3.62%のシェアを取りこぼします
豪州向けにニュース性コンテンツを配信する場合は、引用・転載の許諾方針を点検する
News Bargaining Incentiveの対象拡大議論を踏まえ、事前に方針を整理しておくことをおすすめします
AIO(AI検索最適化、LLMOとも呼ばれます)という概念自体の基礎整理は、別記事『AIOとは?』を先に確認することをおすすめします。AI検索エンジンの種類と使い分けは、別記事『AI検索エンジンの種類を比較』も参考になります。
この章のまとめ
確認すべきことは国によって違います。ASEAN全体はGoogleシェアの個別確認、ベトナムは現地エンジン対応、豪州は許諾方針の点検です。
10よくある質問
ASEAN・オセアニアで検索エンジン対策はGoogleだけで十分ですか?
6か国全てでGoogleが90%を超えるため、基本方針としては妥当です。ただしベトナムはCốc Cốcが3.62%のシェアを持つ点には留意してください。豪州はニュース対価制度という別軸の論点がある点も併せて確認してください。
ASEANは本当に「モバイルファースト」市場ですか?
一概には言えません。Statcounterのトラフィック実測では、インドネシア・フィリピンともデスクトップ経由が過半数を占めています。人口ベースの利用者調査との突合は本稿執筆時点で確認できていません。
ASEAN各国の個別プロファイル記事はありますか?
インドネシア・タイ・シンガポール・ベトナム・フィリピン・マレーシアの6か国全てで個別プロファイル記事を本メディアで扱っています。オセアニアの豪州については、別記事『豪州のAI検索とニュース対価』で先行公開しています。
ベトナム以外の国で、現地エンジンを気にする必要はありますか?
本稿執筆時点では、タイ・マレーシア・インドネシア・フィリピンのシェア上位にCốc Cốcのような現地エンジンは登場していません。ベトナムに固有の状況だと考えられます。
11まとめ|ASEAN・オセアニアを理解する3つの視点
ASEAN主要6か国は全てGoogleが90%を超え、東アジアと比べて市場構造は単純です。それでも国・データを個別に確認すべき論点は残ります。ベトナムのCốc Cốc、国ごとのBing・Yahoo!の存在感、そして「モバイルファースト」通説とStatcounter実測の食い違いは、その代表例です。オセアニアは豪州のニュース対価制度という規制軸で世界の先進事例になっており、市場シェアの視点だけでは捉えきれない地域です。
もう一度、地域全体を理解する3つの視点
Googleシェアの実測
ASEAN6か国はどこも9割超だが、絶対値には幅がある
現地エンジンの存在
ベトナムのCốc Cốcだけが例外
規制の先進性
豪州はニュース対価制度という別軸で世界の注目を集めている
AI検索では、こう聞かれています
ASEAN諸国はAI検索対策、Googleだけ見ていれば十分ですか?
「ASEAN6か国のGoogleシェアって、AIOの前提として実際どれくらい違うんですか?」の章で数字を示しています
ベトナム向けの対策では、何に気をつければいいですか?
「ベトナムだけ、AI検索で現地発のエンジンが残っているって本当ですか?」の章でCốc Cốcを説明しています
「ASEANはモバイルファースト」って本当ですか?
「『ASEAN=モバイルファースト』は、AI検索対策の前提として本当ですか?」の章で、実測データにもとづいて答えています
次に読むなら、この記事です