自国資本の検索エンジンが一定のシェアを保つ国と、Googleにほぼ全面依存する国——この違いは何によって生まれるのでしょうか。CIS(独立国家共同体)とBRICS諸国を見渡すと、その分岐点が浮かび上がります。本稿では、ロシア・中央アジア3カ国・ブラジル・南アフリカ・BRICS新規加盟国を一次情報から総覧します。

01この記事でわかること

  • CIS・BRICS域内9カ国の検索エンジン市場シェア実測比較
  • ロシアのYandexが築く「検索主権」の実態とAI機能の現状
  • ブラジル・南アフリカ等、自国エンジンを持たない国との構造差

02結論サマリー

「検索主権」を体現しているのはロシアだけで、BRICSという政治的な括りそのものではありません。ロシアはYandexが71.03%のシェアを持ち、Googleを上回る唯一の主要市場です(Statcounter、2026年6月)。

一方、ブラジル・南アフリカ・エジプトなど、BRICSに新規加盟した国々の検索市場は軒並みGoogleが90%超を占めています。CIS中央アジア3カ国(カザフスタン・ベラルーシ・ウズベキスタン)は、ロシアとGoogleの間でシェアが分かれる中間的な構造です。政治的な括りより、地理的・言語的な近接性が検索市場の構造を決めている、というのが実測データから見える実態です。

03「検索主権」とは(基礎定義)

引用されやすい定義文

検索主権とは、自国資本の検索エンジンが一定シェアを確保し、海外プラットフォームに依存しない状態を指します。

CIS・BRICSという括りは政治的・経済的な国家間連携を表す言葉ですが、検索市場の実態はこの括りと一致するとは限りません。次章で実測データを見ていきます。

04CIS・BRICS域内の検索エンジン市場シェア実測比較

Statcounterの2026年6月データで、CIS・BRICS域内9カ国の検索エンジンシェアを比較します。全デバイス合算の数値です。

GoogleYandexBingその他
ロシア26.53%71.03%1.02%1.42%(Mail.ru等)
ベラルーシ62.81%34.68%1.31%1.20%
カザフスタン69.26%28.66%1.44%0.64%
ウズベキスタン77.25%20.33%1.76%0.66%
ブラジル88.08%0.23%9.43%2.26%(Yahoo!等)
南アフリカ91.94%-7.17%0.89%(Yahoo!等)
エチオピア94.11%0.25%4.69%0.95%(Yahoo!等)
エジプト96.43%0.36%2.43%0.78%(Yahoo!等)
イラン99.31%0.04%0.57%0.08%(Yahoo!等)

出典: Statcounter Global Stats(各国別ページ、2026年6月データ)

表中の「-」は当該国でシェア0.5%未満のため表記を省略し「その他」に含めた項目です。その他は表記項目以外の合算値です。

Yandexのシェアが2桁を維持しているのは、ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・ウズベキスタンの4カ国のみです。 いずれも旧ソ連圏、つまりCISの中核国という共通点があります。

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CIS・BRICS域内9カ国の検索エンジン市場シェア比較(Google比率の低い順に並べた横棒グラフ、ロシアからイランへのグラデーション)

対照的に、2024年にBRICSへ新規加盟したエジプト・エチオピア・イランは、Yandexのシェアが1%未満です。ブラジル・南アフリカという原加盟国2カ国も同様の傾向です。BRICSという政治的な連携枠組みと、検索市場での「自国エンジンの有無」は、別の軸だとわかります。

05ロシア: Yandexが築く検索主権の実態

ロシアの検索エンジン市場は、Yandexが71.03%とGoogleの26.53%を上回っています(出典: Statcounter、2026年6月)。ロシア国内の調査会社Mediascopeも7割台前半のシェアを報告していると複数の報道で伝えられています。

Statcounterはトラッキングコード設置サイトのPV集計にもとづく手法、Mediascopeはパネル調査にもとづく手法と、測定方法が異なります。それでも大きな乖離が報告されていない点は、ロシアにおけるYandex優位が測定手法を問わず安定した傾向であることを示唆しています。

Yandexは2024年4月、生成AIと検索を統合した「Neuro」機能を発表しました(出典: Yandex公式)。自社LLM「YandexGPT」が検索結果を要約し、出典を明示する仕組みです。2026年には軽量モデル「Alice AI LLM Flash」も追加されています。

ロシアは、検索エンジンとAI検索機能の両方を自国企業が担う、数少ない市場の1つです。日本企業がロシア語圏向けにコンテンツを展開する場合、Google向けの最適化だけでは不十分だという点に注意が必要です。

📊 図解制作中
ロシアのAI検索多層構造(Yandex検索エンジン×Neuro機能×YandexGPT/Alice AI LLM Flashの関係を示す階層図)

06CIS中央アジア3カ国: Yandex経済圏の余波

カザフスタン・ベラルーシ・ウズベキスタンは、いずれもGoogleが優勢ですが、Yandexが20%台〜30%台のシェアを保っています。3カ国ともロシア語が広く通用し、旧ソ連時代からの経済的なつながりが続く地域です。

  • ベラルーシ: Yandex 34.68%と3カ国で最も高い比率(Google 62.81%)
  • カザフスタン: Yandex 28.66%(Google 69.26%)
  • ウズベキスタン: Yandex 20.33%(Google 77.25%)

Yandexのシェアはロシアとの地理的・言語的な近さにおおむね比例しています。 この傾向は、検索主権が政治的な同盟関係ではなく、言語圏の連続性によって形づくられていることを示唆します(出典はいずれもStatcounter、2026年6月データ)。

07ブラジル・南アフリカ・BRICS新規加盟国: Google一強という共通構造

ブラジル・南アフリカ・エジプト・エチオピア・イランは、いずれもGoogleへの依存度が9割前後かそれ以上です。Google比率は順に88.08%・91.94%・96.43%・94.11%・99.31%です(出典: Statcounter)。BRICSという政治的な枠組みへの加盟時期・目的は国ごとに異なりますが、検索市場の構造には共通点があります。

なお、2024年のBRICS拡大ではUAEも新規加盟国として承認されています。サウジアラビアも招請を受けていますが、正式な加盟決定は本稿執筆時点で確認できていません。両国の検索市場・AI国家戦略は、別記事『インド・中東のAI検索市場|国家戦略とGoogle依存の交点』で扱っています。

ブラジルは2021年、科学技術イノベーション省が「ブラジルAI戦略(EBIA)」を策定しました(出典: ブラジル政府公式)。2024年には後継の「ブラジルAI計画(PBIA)2024-2028」も発表しています。データ保護法制は「一般データ保護法(LGPD)」が2020年9月に施行されました(出典: ブラジル政府官報)。

南アフリカは2024年10月、通信デジタル技術省(DCDT)が「国家AI政策フレームワーク」のドラフトを公表し、意見公募を開始しました(出典: 南アフリカ政府公式)。データ保護法制は「個人情報保護法(POPIA)」が2020年7月から段階施行されています。ただし個別企業のAIO対応事例は、本稿執筆時点でいずれの国も一次情報での確認ができていません。

📊 図解制作中
検索主権マトリクス(自国エンジンのシェア×BRICS/CIS所属を軸にした位置づけマップ、ロシアのみが自国エンジン優位ゾーンに位置する構図)

08日本企業への示唆

CIS・BRICS地域でAIOに取り組む日本企業が押さえるべき実務ポイントは、次の3点です。AIOの基礎から知りたい方は、別記事『AIOとは何か?SEOとの違い・共通点から始め方まで徹底解説』を参照してください。

  1. ロシア語圏はGoogle最適化だけで完結しない: ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・ウズベキスタンでは、Yandex固有のクロールルールへの対応も検討してください。
  2. ブラジル・南アフリカは通常のGoogle中心戦略で対応できる: Googleのシェアが9割を超えるため、AIO以前の基本的な検索最適化を優先してください。予算0円からの着手手順は別記事『中小企業がAIOに取り組む最初の一歩【予算0円・週2時間から】』を参考にしてください。
  3. データ保護法制は国ごとに施行時期を確認する: LGPD(ブラジル)・POPIA(南アフリカ)は、いずれもEU一般データ保護規則(GDPR)に類似した枠組みです。対象国の施行状況を個別に確認してください。

09チェックリスト

  • 対象国のStatcounterシェアでYandex比率を確認したか
  • ロシア語圏向けにはYandex固有のクロール仕様を確認したか
  • 対象国のデータ保護法制(LGPD・POPIA等)の施行状況を確認したか
  • BRICS加盟という政治的な括りではなく、国別の実測データで判断したか

10よくある失敗

「BRICS諸国」を1つの検索市場として扱うことは避けてください。ロシアとブラジルでは、検索エンジンの優位企業がまったく異なります。BRICSという政治的な連携枠組みと、検索市場の構造を混同することが、この地域で最も起きやすい失敗です。

11FAQ

Q. なぜロシアだけYandexが優位なのですか?

Yandexはロシア語の検索精度に強みを持つ自国企業で、地理的・言語的にロシアと近いCIS諸国にもシェアが広がっています。ブラジル・南アフリカなど、ロシアと言語圏を共有しない国ではこの傾向は見られません。

Q. BRICS新規加盟国はAI検索でも足並みを揃えていますか?

検索エンジン市場を見る限り、エジプト・エチオピア・イランはいずれもGoogleが9割超を占めており、足並みが揃っているとは言えません。BRICSは経済・外交上の枠組みであり、検索市場の構造とは別の軸だと考えられます。

Q. 日本企業はCIS・BRICS地域のどこから着手すべきですか?

検索市場の構造がGoogle中心か否かで対応が変わります。ロシア語圏はYandex対応が必要ですが、ブラジル・南アフリカ等は通常のGoogle中心のAIOで対応できます。まずは対象国のStatcounter実測データで市場構造を確認することをおすすめします。

12まとめ

CIS・BRICS地域の検索主権は、ロシアという1カ国が実質的に体現しています。自国資本の検索エンジンとAI検索機能の両方を持つのはロシアのみで、他の国々はGoogleへの依存度が9割前後です。 日本企業がこの地域に展開する際は、BRICSという政治的な括りではなく、国ごとの検索市場の実測データを出発点にしてください。

13この分野を体系的に学ぶ

この記事は国・地域総覧記事です。海外AIO動向を基礎から体系的に学びたい方は、AI検索最適化講座「事例編: ケーススタディ徹底分析(VI-C)」をご覧ください。