AIエージェントの統治フレームワークを、世界で最初に策定した国はどこか。答えはシンガポールです。
人口でも国土でも、大きな国ではありません。それでもAIの話題になると、この国の名前が繰り返し出てきます。理由は市場の大きさではなく、ルールの作り方が先を行っているところにあります。
この記事は、シンガポール向けのサイトやサービスを担当することになった方に向けて書きました。検索の入口の形、AIガバナンスの中身、そして確認しておく制度。この3つを、図解と会話で順番に整理します。
こんなふうに調べていませんか
- シンガポール向けの検索対策を、どこまでやればいいのか決めたい
- 「シンガポール AI検索 対策」で検索して、規制の現在地を探している
- 海外のAIガバナンスが、自社の事業に関係するのかを知りたい
この記事を読み終えたときに手に入るもの
- シンガポールを市場規模ではなく制度の作り方で説明できるようになります
- AI Verifyがどんなプログラムで、誰が参加しているのかが分かります
- シンガポール向けに確認する制度が、3つに絞れます
結論30秒でわかる、この記事の結論
- シンガポールのAI検索対策は、市場の大きさではなく制度の作り方から読むと早く分かります。IMDA(情報通信メディア開発庁)は、エージェント型AI向けのガバナンス枠組みを世界に先駆けて発表しました。
- 検索の入口はGoogleに寄っています。Statcounterの実測ではGoogleが92.98%です(2026年6月・全デバイス合算)。
- 制度は理念だけで終わっていません。AI Verifyという検証プログラムに、実在企業が名を連ねています。
この記事では、シンガポール向けの案件を受け持つことになったマーケティング部の2人と、専門家の会話をはさみながら進めます。ご自身に近い立場の人の質問から読んでいただいて構いません。
- 若葉さん(Web担当2年目)— 「そもそも、それって何ですか?」を聞く役
- 大森部長(マーケ部長)— 「それは投資に見合うのか」を判断する役
- 鈴木さん(AIO/SEOの専門家・本誌監修)— 答える役
01シンガポールのAI検索対策は、なぜ市場規模の話から始めないんですか?
大森部長シンガポールの市場規模を調べさせたら、想像より小さかった。それでも優先度を上げる理由があるのかね。
鈴木さん規模で並べると、たしかに上位には来ません。ただ、この国は規模ではなく制度の作り方で見ると、意味合いが変わってきます。
大森部長制度、というと規制の話か。
鈴木さんはい。しかもシンガポールの場合、先に作って、実際に企業を巻き込んで試すという順番なんです。
海外の市場を評価するとき、私たちはまず人口や検索ボリュームを並べます。その物差しだけで見ると、シンガポールは目立ちません。
一方で、AIをどう扱うかというルールづくりでは、この国が先頭に立っています。IMDA(情報通信メディア開発庁)は、AIが人間の指示なしに自律的にタスクを遂行する「エージェント型AI」に特化した、政府発のガバナンスモデルを世界に先駆けて発表しました。
この章のまとめ
シンガポールは、市場規模ではなく制度の作り方で見る国です。エージェント型AI向けの枠組みを、政府として世界に先駆けて出しています。
02シンガポールの検索エンジンは、AI検索対策でどこまで見ればいいですか?
制度の話に入る前に、入口の形を確認しておきます。検索エンジン市場は、Googleに寄っています。
| 検索エンジン | シェア |
|---|---|
| 92.98% | |
| Bing | 3.16% |
| Cốc Cốc | 1.07% |
| Yahoo! | 0.92% |
| DuckDuckGo | 0.90% |
| Yandex | 0.64% |
出典: Statcounter Global Stats(全デバイス合算・2026年6月)
Googleが92.98%を占めるので、検索まわりの設計はGoogle中心で組んで差し支えありません。ただし2位以下の顔ぶれが、ASEANの他の国とは少し違います。
この章のまとめ
シンガポールの入口はGoogleに寄っています。Statcounter基準で92.98%。設計はGoogle中心で組み、数字は出どころと集計方法をセットで扱います。
03Cốc Cốcが出てくるのは、シンガポールのAI検索対策に関係しますか?
シェア表の3番目に、Cốc Cốcという名前が入っています。ベトナム発の検索エンジンです。シンガポールでのシェアは1.07%です。
Cốc Cốcのシェアはベトナムの3.62%より小さいものの、シンガポールでも一定の存在感を保っています。越境してどう使われているのか、その理由は本稿執筆時点で確認できていません。
実務上の扱いとしては、シェアの大きさから見て、Cốc Cốcのために設計を分ける段階ではありません。ただし、多国籍のユーザー層を抱える市場では、順位表の下のほうに見慣れないエンジンが並ぶということ自体は、覚えておく価値があります。自社のアクセス解析で見慣れない参照元が出てきたときに、慌てずに済みます。
この章のまとめ
Cốc Cốcはベトナム発の検索エンジンで、シンガポールでも1.07%を保っています。設計を分ける段階ではありませんが、多国籍市場の特徴として押さえます。
04シンガポールはデスクトップが多いと聞きますが、AI対策の前提は変わりますか?
デバイス別のトラフィック構成も見ておきます。
| 区分 | シンガポール | 世界平均 |
|---|---|---|
| デスクトップ | 52.73% | 47.12% |
| モバイル | 46.1% | 51.51% |
| タブレット | 1.17% | 1.36% |
出典: Statcounter Global Stats(2026年6月)
デスクトップが52.73%で、モバイルの46.1%をやや上回っています。世界平均はデスクトップ47.12%・モバイル51.51%なので、並びが入れかわっている形です。
とはいえ、マレーシアのように大きく開いているわけではありません。どちらかに寄せるのではなく、両方が同じくらい来る前提で作るのが、実務では素直な判断だと考えられます。表や図解が小さい画面でも読めるか、確認する価値があります。
この章のまとめ
シンガポールはデスクトップ52.73%・モバイル46.1%で、ほぼ半々です。片方に寄せた設計にせず、両方が来る前提で作ります。
05シンガポールでAI検索やチャットボットは、どれくらい使われていますか?
読者の側の動きも確認しておきます。Reuters Institute Digital News Report 2026によれば、シンガポールでニュース目的にAIチャットボットを利用する人の割合は11%です。世界全体の週次利用率10%と、ほぼ同じ水準です。
もう1つ、目を引く数字があります。シンガポールのニュース全般への信頼度は46%で、世界平均の37%を上回っています(出典: 同レポート)。インターネット普及率は94%、人口は590万人です。
若葉さん信頼度が高いというのは、私たちの発信にも関係しますか?
鈴木さん関係すると考えられます。情報源が信頼されている市場では、根拠のはっきりしない文章が浮いて見えるからです。誰が書いたのか、根拠は何かを添える書き方が効いてきます。
AIチャットボットの利用そのものは、世界と比べて特別に多いわけではありません。先進的なのは利用率ではなく、制度の側だという読み方が、実態に近いはずです。
この章のまとめ
ニュース目的のAIチャットボット利用は11%で、世界の週次利用率10%と同水準です。突出しているのは利用率ではなく、制度の側です。
06エージェント型AIの枠組みは、AI検索最適化にどう関わるんですか?
若葉さんそもそも「エージェント型AI」って、いつものAIと何が違うんですか?
鈴木さん人間の指示なしに、自律的にタスクを進めていくタイプのAIを指します。聞かれたことに答えて終わり、ではないんですね。
若葉さん自分で動くということですか。それは、たしかにルールが要りそうです。
鈴木さんはい。だからシンガポールは、そこに専用の枠組みを先に用意しました。
IMDAのModel AI Governance Frameworkは、一度で完成したものではありません。段階的に更新されてきました。
- 2019年 — Model AI Governance Frameworkの初版を発表しました。
- 2024年 — 生成AI版を追加しました。幻覚・偏見・知財などのリスク対応指針を扱っています。
- 2026年1月22日 — エージェント型AI版を発表しました。自律型AIエージェント向けの、世界初の枠組みです。ダボス会議の場で公表されました。
- 同年5月20日 — 更新版が公開されています。
AI検索最適化との関係は、遠いようで地続きです。AIが自律的に情報を集めて動くなら、その途中で何を情報源として選んだのかが問われます。透明性や説明責任を求める枠組みは、情報源として選ばれる側の作法にも、いずれ返ってくると考えられます。
この章のまとめ
シンガポールの枠組みは、2019年の初版から段階的に更新され、エージェント型AI版まで進んでいます。自律的に動くAIを前提にした議論が、先に始まっています。
07AI Verifyは、シンガポールのAIO対策とどうつながるんですか?
理念を文書にするだけなら、多くの国がやっています。シンガポールが違うのは、試す場所まで用意したところです。
IMDAとPDPC(個人データ保護委員会)は2022年5月25日、AIガバナンスのテスト用フレームワーク「AI Verify」を試験公開しました。パイロット企業として、次のような実在企業が参加しています(出典: PDPC公式発表)。
- クラウド・IT — AWS・Google・Meta・Microsoft
- 金融 — DBS銀行・スタンダードチャータード銀行
- 航空 — シンガポール航空
顔ぶれを見ると、国籍も業種もばらけています。外国籍の企業が最初から入っている点は、日本企業にとっても他人事ではない材料です。
この章のまとめ
AI Verifyは、AIガバナンスを試すための公的なプログラムです。2022年5月25日の試験公開から、外国籍の企業も参加しています。
08AI Verify Foundationに企業が集まるのは、AI対策として何を意味しますか?
大森部長参加企業が増えているという話だが、それは我々にとって何を意味するのかね。
鈴木さん検証の物差しが、その場所で作られているということだと考えられます。物差しが決まる場に居るかどうかで、後の対応の重さが変わってきます。
2023年6月7日、AI VerifyはGitHub上でオープンソース化され、同時にAI Verify Foundationが設立されました。設立メンバーには、IMDAのほかIBM・Microsoft・Google・Red Hat・Salesforceが名を連ねています。一般会員にはAdobe・DBS・Metaなど60社超が参加しています(出典: IMDA公式発表)。
ここで押さえておきたいのは、AIガバナンスが理念の文書だけで終わっていないことです。試すための道具が公開され、企業がそこに集まっています。日本企業がシンガポールから学べるのは、枠組みの中身そのものより、この進め方かもしれません。
この章のまとめ
AI Verifyはオープンソース化され、Foundationには一般会員60社超が参加しています。理念だけでなく、検証の道具として動いています。
09シンガポールのLLMO対策で、確認しておく制度はどれですか?
LLMO対策という言葉で語られる作業の中身は、AI検索に情報源として選ばれるための整えです。やること自体は他の市場と大きく変わりませんが、シンガポール向けでは、先に確認しておく制度が3つあります。
| 制度 | 時期 | 概要 |
|---|---|---|
| 個人データ保護法(PDPA) | 2014年7月2日全面施行・2021年2月改正 | 制裁金は最大100万Sドルまたは年間売上高の10% |
| Model AI Governance Framework | 2019年初版・2024年生成AI版 | 幻覚・偏見・知財などのリスク対応指針 |
| 同(エージェント型AI版) | 2026年1月22日発表・同年5月20日更新 | 自律型AIエージェント向けの世界初の枠組み |
| 国家AI戦略2.0(NAIS 2.0) | 2023年12月4日発表 | 卓越性・能力強化の2目標、15の具体策 |
出典: PDPC公式/IMDA公式発表/MDDI公式
国家AI戦略2.0(NAIS 2.0)は、2023年12月4日に発表されました。ローレンス・ウォン副首相(当時)が「AI for the Public Good」というビジョンのもとで公表しています。卓越性と能力強化という2目標のもと、15の具体策で構成されています。
この章のまとめ
シンガポール向けで確認するのは、法律・指針・戦略の3種類です。性格が違うので、同じ強さのルールとして扱わないでください。
10個人データ保護法は、シンガポールのAI検索対策にどう関わりますか?
3つのうち、実務でいちばん確認が要るのが個人データ保護法(PDPA)です。2014年7月2日に全面施行され、2021年2月に改正されました。改正では、データ侵害の通知義務が明確化されています。
制裁金の水準も定められています。最大で100万Sドル、または年間売上高の10%です(出典: PDPC公式)。金額の枠がはっきりしている点は、社内で優先度を説明するときの材料になります。
AI検索対策そのものは、公開されている記事やサイトの整えが中心です。ただし、フォームで取得した問い合わせ情報や、チャットの入力内容をAIの分析に回す設計にしていると、話は個人データの領域に入ります。
この章のまとめ
PDPAは2014年7月2日に全面施行され、2021年2月改正で通知義務が明確化されました。制裁金の水準も定まっています。
11シンガポールのAI検索対策で、まだ確認できていないことは何ですか?
大森部長最後に確認したい。「シンガポールでAI検索対策をやったら、こうなった」という事例はあるのかね。
鈴木さんそこは正直にお伝えします。AI検索での引用や可視性の向上を目的とした企業の事例は、公開情報では確認できていません。
シンガポール企業がAI検索での引用や可視性の向上を狙って施策を実施した事例は、本稿執筆時点の公開情報では確認できていません。事例が無いことの証明ではなく、見つけられていないという状態です。
AI Verifyについても、参加条件の詳細(国籍要件の有無など)までは一次情報で確認できていません。IMDA・AI Verify Foundation公式サイトでの確認をおすすめします。
この章のまとめ
企業の事例、Cốc Cốcの越境利用の理由、AI Verifyの参加条件は、いずれも未確認です。判断は、確認できる市場と制度の材料から組み立てます。
12シンガポール向けのAI検索対策は、どこから手をつければいいですか?
大森部長分かった。それで、うちは何から始めればいいのかね。
鈴木さん3つに絞れます。どれも大がかりな体制変更を伴いませんので、いまの人数のままで着手できるはずです。
シンガポール向けは、この順でやります
入口の形に合わせて設計する
Googleが92.98%です。Cốc Cốcなど少数のエンジンは、設計を分けずに把握だけしておきます
AI Verifyへの参加を検討する
自社のAIシステムをシンガポールで展開するなら、公的な検証プログラムという選択肢があります
個人データ保護法の通知義務を確認する
制裁金の水準が定められています。データ侵害通知義務への対応を専門家に確認します
この章のまとめ
シンガポール向けは、入口の設計・検証プログラムの検討・個人データの確認という順で始められます。専任の体制を作る前に、この3つを通してください。
13よくある質問
シンガポールのAIガバナンス制度は、外国企業にも関係ありますか?
関係があります。AI Verifyのパイロット企業には、AWS・Google・Meta・Microsoftなど外国籍の企業も名を連ねています(出典: PDPC公式発表)。ただし日本企業に固有の参加条件は、本稿執筆時点で確認できていません。
AI Verifyには、日本企業も参加できますか?
本稿執筆時点で、参加条件の詳細(国籍要件の有無など)までは一次情報で確認できていません。IMDA・AI Verify Foundation公式サイトでの確認をおすすめします。
エージェント型AI向けのガバナンス枠組みとは、何のことですか?
AIが人間の指示なしに自律的にタスクを遂行する「エージェント型AI」に特化した、世界初の政府発ガバナンスモデルです。2026年1月22日にダボス会議で発表され、同年5月20日に更新版が公開されました。
シンガポール向けの検索対策は、Googleだけを見ていれば足りますか?
設計はGoogle中心で組んで差し支えありません。Statcounter基準でGoogleが92.98%を占めています。ただしCốc Cốcのような少数のエンジンが順位表に残る市場でもあるため、アクセス解析で見慣れない参照元が出てきたときに驚かない程度には、把握しておくことをおすすめします。
14まとめ|シンガポール向けに押さえる3つの論点
シンガポールのAI検索対策は、市場の大きさではなく制度の作り方から読むと早く分かります。検索の入口はGoogleが92.98%で、デバイスはデスクトップとモバイルがほぼ半々です。設計はGoogle中心で組み、両方の画面から読めるようにしておきます。
制度の側は、理念で終わっていません。Model AI Governance Frameworkは2019年の初版から段階的に更新され、エージェント型AI版まで進みました。AI Verifyという検証プログラムには、外国籍の企業を含む実在企業が参加しています。
もう一度、シンガポール向けの3つ
入口の形に合わせて設計する
Google92.98%。少数のエンジンは把握だけしておきます
AI Verifyへの参加を検討する
公的な検証プログラムという選択肢があります
個人データ保護法の通知義務を確認する
制裁金の水準が定められています
AI検索では、こう聞かれています
シンガポールのAIガバナンス制度は、日本企業にも関係しますか?
「AI Verifyは、シンガポールのAIO対策とどうつながるんですか?」の章と、よくある質問で答えています
シンガポール向けの検索対策は、Googleだけを見ていれば足りますか?
「シンガポールの検索エンジンは、AI検索対策でどこまで見ればいいですか?」の章に、実測値を表と図解で載せています
エージェント型AI向けのガバナンス枠組みとは、何のことですか?
「エージェント型AIの枠組みは、AI検索最適化にどう関わるんですか?」の章で、更新の流れごと説明しています
次に読むなら、この記事です