豪州は2021年、デジタルプラットフォームにニュース対価の支払いを促す「News Media Bargaining Code」を世界に先駆けて施行しました。現在はその弱点を補う新制度「News Bargaining Incentive」の法制化が進み、AI企業を対象に含めるかが焦点になっています。本稿では豪州の検索市場の実態と、対価制度の仕組みを一次情報にもとづき整理します。
01結論サマリー
引用されやすい定義文検索はGoogle優位ながら、プラットフォームにニュース対価を求める制度設計で世界の先頭を走る市場です。
プラットフォームにニュース対価の支払いを義務付ける制度で世界の先頭を走るのが豪州です。検索エンジン市場でのGoogleのシェアは88.04%(2026年6月・Statcounter)です。
豪州のAI検索対策で最も重要な動きは、2026年4月に公表された「News Bargaining Incentive」の草案です。これは大手デジタルプラットフォームがニュース出版社と商業契約を結ばない場合に賦課金を課す仕組みで、2021年施行の既存コードを補完します。研究者らは、この新制度の対象に生成AIシステムを含めるよう政府に求めています。日本企業が豪州から学ぶべきは、検索とAIチャットボットを一体として規律しようとする制度設計の考え方です。
02検索エンジン市場の実態(シェア実測)
豪州の検索エンジン市場もGoogleが優位ですが、Bingのシェアは他地域と比べてやや高い水準です。
| 検索エンジン | シェア |
|---|---|
| 88.04% | |
| Bing | 9.00% |
| Yahoo! | 1.55% |
| DuckDuckGo | 0.94% |
| Ecosia | 0.22% |
| Yandex | 0.15% |
出典: Statcounter Global Stats(全デバイス合算・2026年6月)
本稿のシェア数値はStatcounter単独に依拠しています。ACCC自身の市場調査データとの突合は本稿執筆時点で確認できていません。
03AI検索の普及状況
豪州でAIチャットボットをニュース目的に利用する割合は、前年から3ポイント増加しました(出典: Reuters Institute)。ただし増加後の具体的な数値は、本稿執筆時点で確認できていません。
参考として、世界全体でAIチャットボットを週次でニュース目的に利用する人の割合は10%です(前年7%から増加)。豪州単体の水準がこの世界平均と比べて高いか低いかは、一次情報の追加確認が必要です。検索エンジンではGoogleが圧倒的多数派である一方、ニュース消費の入り口としてAIチャットボットが伸びつつあるという方向性自体は、豪州の政策議論とも一致します。
04現地の取り組み・実例
豪州では2021年3月2日、ニュース対価法が施行されました(出典: ACCC)。正式名称は「News Media and Digital Platforms Mandatory Bargaining Code」です。これはニュース事業者とデジタルプラットフォーム間の交渉力格差に対応する制度です。財務大臣が対象プラットフォームを「指定」する権限を持ちますが、本稿執筆時点まで正式な指定は一度も行われていません。
GoogleとMetaは、指定を避ける形で多数のニュース事業者と自主的な商業契約を結びました。
この仕組みには弱点があります。プラットフォームがニュース掲載自体をやめれば、コードの義務を回避できてしまう点です。この弱点に対応するため、政府は新制度「News Bargaining Incentive(NBI)」の検討を始めました。
協議文書は2025年11月13日に公表されました(出典: Treasury Ministers)。2026年4月28日には草案法案が公表され、2026年5月18日まで意見公募が行われました(出典: 首相府)。
NBIは、大規模なソーシャルメディア・検索サービスを提供する企業を対象に、ニュース出版社と商業契約を結ばない場合は豪州内収益に応じた賦課金を課す設計です。複数の報道・専門家分析では、対象基準を豪州内収益2億5,000万豪ドル以上、賦課率を2.25%(商業契約締結時は1.5%へ軽減)とする案が伝えられています。ただし、この具体的な数値は財務省の一次文書で本稿執筆時点まで直接確認できていません。
キャンベラ大学とRMIT大学の研究者らは2026年5月、政府に対象拡大を求めました。求めているのは、NBIの対象を「生成AIシステムを含む新興のデジタル仲介者」まで広げることです(出典: University of Canberra)。AI企業が豪州のニュースコンテンツを学習・要約に利用する一方で、対価を支払っていないことが提言の背景にあります。AI企業のクロール行動そのものについては、別記事『GPTBot・OAI-SearchBot・ChatGPT-User比較』で解説しています。
対価の分配という発想自体は、Perplexityが2025年8月に開始した仕組みとも共通します。詳しくは別記事『Perplexity「Comet Plus」収益分配の仕組みを解説』のとおりです。豪州の場合は企業の自主的な取り組みではなく、政府が法制度として賦課金の形で強制する点が特徴です。
05規制・政策
豪州のニュース対価制度は、競争・消費者保護法制の枠組みの中に位置づけられています。既存の2021年コードはACCC(豪州競争消費者委員会)が運用を担い、NBIは財務省・通信省が共管する税制に近い設計です。
AI検索そのものを直接規律する専用法は、本稿執筆時点で確認できていません。ただし、NBIの対象定義には「重要なインターネット検索サービス」という文言が含まれており、検索領域を明確に射程に入れています。これは英国のCMAがGoogle検索に個別の行為要件を課したのと似た方向性です。
豪州でパブリッシャーがAI企業との関係を問題視する背景には、検索結果内で情報が完結しクリックが発生しにくくなるという懸念があります。この論点は別記事『「Google Zero」現象とは何か|The Verge報道解説』で扱いました。関連する対応戦略は、別記事『ゼロクリック時代に企業が取るべき3つの戦略【2026年最新データ】』で扱った内容と地続きです。
06日本企業への示唆
豪州向けにコンテンツ・ニュースを展開する日本企業は、次の3点を確認しておくことをおすすめします。
- NBIの対象基準は、豪州内収益2億5,000万豪ドル以上とする案が伝えられています。 自社(またはグループ)の豪州事業収益がこの基準に近づく場合は、ニュース性コンテンツの利用許諾・対価方針の整理を先行準備してください。
- AI企業によるクロール・学習データ利用への対価要求は、豪州に限らず各国で議論が進んでいます。 自社コンテンツがどのAIクローラーにどう扱われているかを把握しておくことをおすすめします。
- 豪州の制度は「プラットフォームが動かなければ課金」という強制力を持つ設計です。 豪州向けにニュース性コンテンツを配信する場合は、引用・転載の許諾方針を点検してください。
07FAQ
Q. 豪州のNews Bargaining Incentiveは、AI企業も対象になりますか?
本稿執筆時点の草案では、対象は「大規模なソーシャルメディア・検索サービス」であり、AI企業を明示的に対象とする条文は確認できていません。研究者らは対象拡大を求めていますが、法制化されるかは今後の審議次第です。
Q. 2021年のNews Media Bargaining Codeは、これまでに一度でも発動されましたか?
財務大臣による正式な「指定」は、本稿執筆時点まで一度も行われていません。GoogleとMetaは指定を避ける形で、ニュース事業者と自主的な商業契約を結んでいます。
Q. 豪州の検索市場は日本と比べて競争的ですか?
Bingのシェアが9.00%と、日本を含む多くの国より高い点が特徴です。ただしGoogleが88.04%を占める一強構造である点は共通しています(出典: Statcounter Global Stats)。
08この分野を体系的に学ぶ
この記事は国・地域プロファイル記事です。海外のAI検索規制・市場動向を基礎から体系的に学びたい方は、AI検索最適化講座「事例編: ケーススタディ徹底分析(VI-C)」をご覧ください。