フィリピンは、憲法で英語をフィリピノ語と並ぶ公用語と定める、ASEANでも数少ない国です。この言語環境は、AI検索サービスとの相性という観点でも無視できない意味を持ちます。本稿は、フィリピンの検索エンジン市場の実態と、英語圏市場としての特性を一次情報にもとづき整理します。
01結論サマリー
英語コンテンツをそのまま流用できる、日本企業にとって参入障壁の低いAI検索市場——それがフィリピンです。ChatGPT採用率は42.4%で世界6位と報じられ、公用語の一つである英語の既存資産がそのまま活きる土壌があります。
フィリピンの検索エンジン市場でGoogleは90.3%を占めています(出典: Statcounter、2026年6月)。この数値はASEAN6か国の中で最も低い水準ですが、Bing(6.16%)・Yahoo!(2.85%)という英語圏で強い2サービスが2位・3位につけている点が特徴です。
フィリピンはEF英語能力指数(EF EPI)2025年版で569点・世界28位です(出典: EF公式)。アジアではマレーシアに次ぐ水準と報じられています。この英語環境が、ChatGPTなどのAI検索サービスとの親和性に影響している可能性があります。日本企業がフィリピン向けにコンテンツを展開する際は、この言語特性を踏まえた設計が実務上の論点になります。
02検索エンジン市場の実態(シェア実測)
フィリピンの検索エンジン市場は、ASEAN6か国の中でGoogleのシェアが最も低く、Bing・Yahoo!という2つの英語圏系エンジンの存在感がやや強い点が特徴です。
| 検索エンジン | シェア |
|---|---|
| 90.3% | |
| Bing | 6.16% |
| Yahoo! | 2.85% |
| DuckDuckGo | 0.28% |
| Ecosia | 0.18% |
| Yandex | 0.1% |
出典: Statcounter Global Stats(全プラットフォーム合算・2026年6月)
デバイス別のトラフィック構成は、デスクトップがわずかに優位という結果です。
| 区分 | フィリピン | 世界平均 |
|---|---|---|
| デスクトップ | 54.04% | 47.12% |
| モバイル | 44.99% | 51.51% |
| タブレット | 0.97% | 1.36% |
出典: Statcounter Global Stats(2026年6月)
フィリピンのGoogleシェア90.3%は、ASEAN6か国の中で最も低い数値です(タイ99.58%〜フィリピン90.3%、出典: Statcounter)。ただしそれでも9割を超えており、「Google一強+周辺エンジンへの目配り」という基本方針自体はASEAN他国と変わりません。
本稿のシェア数値はStatcounter単独の実測にもとづいており、フィリピン国内の独自統計との突合は行っていません。タグ設置サイトのページビュー集計という方式ゆえ、サイト構成の偏りに由来する誤差が生じうる点はご留意ください。
03AI検索の普及状況
フィリピンのAIチャットボット市場では、ChatGPTが76.89%を占めています(出典: Statcounter、2026年6月)。
| サービス | シェア |
|---|---|
| ChatGPT | 76.89% |
| Google Gemini | 11.35% |
| Microsoft Copilot | 5.94% |
| Perplexity | 4.26% |
| Claude | 1.55% |
出典: Statcounter Global Stats(AIチャットボット市場シェア、2026年6月)
We Are Social・MeltwaterはGWI調査データをもとに「Digital 2026」レポートを発表しました。同レポートによれば、フィリピンの16歳以上インターネット利用者の42.4%が直近1か月にChatGPTを利用したとされています。フィリピンのChatGPT採用率42.4%は、世界6位と報じられています(出典: The Daily Tribune)。世界平均の26.5%を大きく上回る水準です。
Reuters Institute Digital News Report 2026によれば、フィリピンのインターネット普及率は67%です。ニュース全般への信頼度は28%で、前年比10ポイント低下・世界平均37%です(出典: 同レポート)。ニュースを時々・頻繁に回避する人の割合は51%にのぼり、ソーシャルメディアが主要なニュース源になっています。
英語環境の高さとAI検索利用の関係は、相関として観察できるものの、因果関係を証明する一次情報は本稿執筆時点で確認できていません。
04現地の取り組み・実例
フィリピン企業を主体とするAIO対応の公開事例は、本稿執筆時点で一次情報から確認できていません。代わりに、政府主導の国家AI戦略の整備状況を軸に整理します。
フィリピンの国家AI戦略は、2021年のロードマップ策定から2025年の大統領承認まで、段階的に整備が進みました。
- 2021年: 貿易産業省(DTI)が「National AI Strategy Roadmap」(NAISR 1.0)を策定
- 2024年7月3日: DTIが生成AI等を反映した「NAISR 2.0」を採択
- 2025年4月30日: 科学技術省(DOST)長官が「National AI Strategy(NAIS-PH)」を提案(出典: DOST公式)。インフラ・人材育成・イノベーション・倫理とガバナンス・実装の5本柱で構成し、2028年までにHPC(高性能計算)能力を26倍に拡大する目標を掲げる
- 2025年5月: マルコス大統領が承認したと報じられています(出典: 現地報道)
- 2026年4月: 経済企画開発省(DepDev)がAIガバナンスフレームワーク草案を提示したと報じられている(出典: BusinessMirror)
出典: フィリピン科学技術省(DOST)公式発表
NAIS-PHは2028年までの実装計画であり、本稿執筆時点でHPC能力拡大の進捗を示す一次情報はまだ確認できていません。戦略の存在と、実装の進捗は分けて捉える必要があります。
05規制・政策
フィリピンのデータ保護法制は、2012年制定のデータプライバシー法(共和国法10173号)が基盤です。
| 制度 | 時期 | 概要 |
|---|---|---|
| データプライバシー法(RA 10173) | 2012年8月15日署名 | 国家プライバシー委員会(NPC)を設置 |
| NAISR 1.0/2.0 | 2021年/2024年7月 | DTI主導の国家AI戦略ロードマップ |
| NAIS-PH | 2025年4月30日提案・同5月承認(報道) | DOST主導・2028年までの実装計画 |
| AIガバナンスフレームワーク(草案) | 2026年4月時点で草案段階 | DepDev主導、国益保護・イノベーション促進等4方針 |
出典: LawPhil法令データベース/フィリピン科学技術省(DOST)公式/BusinessMirror報道
AI専用の包括的な法律は、本稿執筆時点でフィリピンにまだ制定されていません。既存のデータプライバシー法とサイバーセキュリティ関連法を基盤にしつつ、AI固有の倫理・説明責任を補うかたちでフレームワーク整備が進んでいます。
06日本企業への示唆
フィリピン向けにAIサービス・コンテンツを展開する日本企業は、次の3点を確認しておくことをおすすめします。
- 英語コンテンツの親和性は高いものの、フィリピノ語や地域言語への配慮も検討してください。 EF EPIで世界28位という英語環境は強みですが、公用語はフィリピノ語と英語の2つです。まずは既存の英語コンテンツ資産をそのまま転用できるか確認しましょう。フィリピンはBing(6.16%)・Yahoo!(2.85%)のシェアが他のASEAN諸国より高い市場です。Bing経由のCopilot露出など、AIO対策への活用視点も持つと効果的です。主要AI検索エンジンの特性差は、別記事『AI検索エンジンの種類と使い分けまとめ|主要7サービス比較表』も参考になります。
- AIガバナンスフレームワークの正式発表時期を注視してください。 2026年4月時点で草案段階のため、確定後に規制対応の要否を確認することをおすすめします。
- データプライバシー法(RA 10173)にもとづき、フィリピン国内のユーザーデータを扱う場合はNPCへの登録・通知義務の要否を専門家に確認してください。
ASEAN各国の全体像は、別記事『ASEAN・オセアニアのAI検索地図|現地エンジンと規制を比べる』を参照してください。AIOの基礎整理は、別記事『AIOとは何か?SEOとの違い・共通点から始め方まで徹底解説』も参考になります。
07FAQ
Q. 英語の既存コンテンツを流用する場合、何から着手すべきですか?
まず公用語の実態を確認してください。フィリピンの公用語はフィリピノ語と英語の2つです(1987年憲法)。ビジネス・教育分野では英語が広く通用するため既存コンテンツはそのまま展開できますが、フィリピノ語や地域言語コンテンツの併用も検討する設計が望ましいと考えます。
Q. フィリピンのChatGPT利用率は本当に世界トップクラスですか?
フィリピンのChatGPT採用率は世界6位と報じられています(出典: The Daily Tribune「Digital 2026」レポート)。ただしこの数値は二次報道にもとづくものです。原調査(GWI)への直接確認は、本稿執筆時点でできていません。
Q. フィリピンにAI専用の法律はありますか?
本稿執筆時点で、包括的なAI専用法はまだ制定されていません。2026年4月時点でAIガバナンスフレームワークが草案段階にあると報じられており、既存のデータプライバシー法(RA 10173)が実務上の基盤になっています。
08この分野を体系的に学ぶ
この記事は国・地域プロファイル記事です。海外のAI検索規制・市場動向を基礎から体系的に学びたい方は、AI検索最適化講座「事例編: ケーススタディ徹底分析(VI-C)」をご覧ください。