チリは、人口約1,990万人という中規模国でありながら、中南米で最も早くAI政策の改定を重ねてきた国の一つです。検索市場ではGoogleが優位を保ちつつも、個人データ保護法制は2024年末に大きく刷新されました。本稿は、この「市場規模は中規模、制度整備は先行」という構造を軸に、一次情報から市場・規制の実態を整理します。

01結論サマリー

チリの本当の特徴は、検索シェアではなくAI政策の整備速度にあります。検索市場はGoogleが90.18%と、地域平均並みの水準です(出典: Statcounter、2026年6月)。

国家AI政策は2021年の初版から2024年5月に改定されました(出典: チリ科学技術知識革新省、Cooperativa.cl報道)。改定版は、100以上の具体的な施策を2026年までに実行する計画です。個人データ保護法制も、2024年12月13日公布のLey21.719により、新しいデータ保護庁の設立を含む抜本改正を迎えました(出典: Carey Abogados法律事務所)。

日本企業がチリ向けにAI検索対応を検討する際は、市場シェアの数字以上に、この制度整備の速さを前提に準備する必要があります。

02検索エンジン市場の実態(シェア実測)

検索エンジンシェア
Google90.18%
Bing7.02%
Yahoo!2.09%
DuckDuckGo0.34%
Yandex0.24%
Ecosia0.09%

出典: Statcounter Global Stats(全デバイス合算・2026年6月)

この数値は、別記事『南北アメリカのAI検索地図|市場シェアと規制の違いを読む』が報告した南米地域計90.94%とほぼ同水準です。中南米の中では、際立った特異性を持たない標準的なGoogle優位市場だといえます。

本稿のシェア数値はStatcounter単独の実測にもとづいており、チリ政府による独自の市場調査データとの突合は本稿執筆時点で確認できていません。Statcounterは加盟サイト群のページビューをタグ計測する方式のため、サイト構成の偏りに由来する誤差が生じうる点にご留意ください。

📊 図解制作中
チリの検索エンジン市場シェアの構成比。Google90.18%を中心の大きな要素とし、Bing7.02%・Yahoo!2.09%・その他0.76%を円グラフ相当の構成比で示す図

03AI検索の普及状況

チリのAIチャットボット市場では、ChatGPTが71.52%を占めています(出典: Statcounter、2026年6月)。

サービスシェア
ChatGPT71.52%
Google Gemini15.02%
Perplexity5.01%
Claude4.52%
Microsoft Copilot3.93%

出典: Statcounter Global Stats(AIチャットボット市場シェア、2026年6月)

Reuters Institute Digital News Report 2026(2026年6月16日公開)によれば、チリのインターネット普及率は96%です。ニュース全般への信頼度は34%で、世界平均37%をやや下回り、前年比2ポイント低下しています。ニュースを時々・頻繁に回避する人の割合は45%、オンラインニュースの有料購読率は10%です。

同レポートは、チリのAIチャットボット利用率について具体的な数値を示していません。AI検索の普及度合いは、現時点ではStatcounterのAIチャットボット市場シェアが最も具体的な手がかりです。

04現地の取り組み・実例

チリ発のAIO対応事例を裏づける公開情報は、本稿執筆時点でまだ見当たりません。代わりに、政府主導のAI国家政策の整備状況を軸に整理します。

チリ科学技術知識革新省は2024年5月、2021年策定の国家AI政策の改定版を発表しました(出典: Cooperativa.cl報道、アイセン・エッチェベリ大臣)。正式名称はPolítica Nacional de Inteligencia Artificialです。改定版は100以上の具体的な施策を2026年までに実行する計画です。国際連携・環境と気候危機・インクルージョンと非差別・児童と青少年・文化と文化遺産保護という5つの副軸が新たに加わりました。

ユネスコのオードレイ・アズレイ事務局長は、チリをラテンアメリカで初めて評価プロセスを完了した国と評価したと報じられています。同事務局長は、具体的な行動に反映させた点も評価したとされています(出典: Cooperativa.cl)。

📊 図解制作中
チリのAI政策・データ保護法制の時系列整理。「2021年: 国家AI政策(初版)策定」→「2024年5月: 国家AI政策改定版発表」→「2024年12月13日: Ley21.719(データ保護法抜本改正)官報公布」の3点をタイムラインで示す図

05規制・政策

チリのデータ保護法制は、2024年に大きな転換点を迎えました。

制度時期概要
旧個人データ保護法(Ley19.628)従来法Ley21.719により抜本改正される対象
Ley21.719(新データ保護法)2024年12月13日官報公布データ保護庁(Agencia de Protección de Datos Personales)を新設、ARCO権を強化
国家AI政策改定版2024年5月発表2026年までに100以上の施策を実行する計画

出典: Carey Abogados法律事務所解説/チリ科学技術知識革新省(Cooperativa.cl報道)

Ley21.719は公布から24ヶ月後の完全施行が計画されています(出典: Carey Abogados)。この間に関連規則の制定(6ヶ月以内)やデータベースの整理(20ヶ月以内)が段階的に進められます。AI専用の包括的な法律は、本稿執筆時点でチリにまだ制定されていません。データ保護法制の抜本改正と、2度目の改定を迎えた国家AI政策という2つの動きが、規制環境の土台を形づくっています。

06日本企業への示唆

  1. Ley21.719の完全施行(公布から24ヶ月後)に向けたスケジュールを把握し、チリ向けにユーザーデータを扱う場合はデータ保護庁への対応方針を早期に検討してください。 新設されるデータ保護庁の具体的な運用ルールは、今後の規則制定で明確になる見込みです。
  2. チリの国家AI政策が掲げる倫理性・非差別等の副軸を踏まえ、AIを用いたコンテンツ配信の透明性を担保する設計を検討してください。 政策の改定サイクルが早い市場であるため、定点観測が実務上有効です。
  3. ユネスコが評価プロセス完了国と報じたチリでも、国家AI政策の整備速度に見合う自社データはまだ手薄なのが実情です。 チリ固有のAIO対応事例が確認できない現時点では、Ley21.719の完全施行(公布から24ヶ月後)を待たず、AI経由流入をGA4等で自主的に計測し始めることが判断材料になります。

ブラジルとの比較は、別記事『ブラジルAI検索市場の現在地|LGPDと国家AI計画の接点』をご覧ください。メキシコとの比較は、別記事『メキシコのAI検索基盤|ニアショアリングと大型デジタル投資』をご覧ください。アルゼンチンとの比較は、別記事『アルゼンチンAI検索市場を読む|経済環境とデータ保護法改正』をご覧ください。AIOの基礎整理は、別記事『AIOとは何か?SEOとの違い・共通点から始め方まで徹底解説』を参考にしてください。

07FAQ

Q. チリの検索エンジン市場に、Google以外で存在感のあるサービスはありますか?

Bingが7.02%で2位につけていますが、それ以外のサービスはいずれも3%未満です(出典: Statcounter、2026年6月)。南米地域計90.94%と近い水準で、特異な市場構造ではありません。

Q. チリのAI政策は、他の中南米諸国と比べて先行しているのですか?

本稿執筆時点で他国との定量比較は確認できていません。確認できるのは、チリが2021年の初版から2024年5月に改定を重ね、2026年までの100以上の施策を計画している事実と、ユネスコから評価プロセスの完了を報じられている事実です。

Q. チリにデータ保護に関する新しい法律はありますか?

はい。2024年12月13日に公布されたLey21.719が、新しいデータ保護庁の設立を含む抜本改正を行います。公布から24ヶ月後の完全施行に向けて、規則制定などの準備が進む段階です。

08この分野を体系的に学ぶ

この記事は国・地域プロファイル記事です。海外のAI検索規制・市場動向を基礎から体系的に学びたい方は、AI検索最適化講座「事例編: ケーススタディ徹底分析(VI-C)」をご覧ください。