海外市場のAI対応を調べていると、たいていは「その国の規制がどうなっているか」から入ります。ところがカナダは、その入り方をすると手が止まります。
包括的なAI法案が廃案になり、後継の戦略も新しいAI専用法には踏み込んでいないからです。制度の側から順に読んでいくと、結論が出ないまま資料だけが増えていきます。
この記事は、そこで止まった方に向けて書きました。カナダで先に動いているのは企業のほうです。一次情報で確認できたことだけを並べ、同じくらい大事なまだ確認できていないことも、そのまま残します。
投資や出店の判断材料として読んでいただく記事です。そのため、確からしさの度合いが違うものを、同じ強さで並べないようにしています。
こんなふうに調べていませんか
- 「カナダ AI検索 対策」で検索して、現地市場の実態を知りたいと思っている
- カナダ向けのECやコンテンツを検討していて、規制がどうなっているか確かめたい
- AI経由の購買がどれくらい増えているのか、開示された数字を探している
この記事を読み終えたときに手に入るもの
- カナダの検索市場がどこに寄っているかを、数字の限界つきで説明できるようになります
- AI検索経由の購買が伸びている事実を、開示された数字で示せるようになります
- 日本企業として先に確認することが、3つに絞れます
結論30秒でわかる、この記事の結論
- カナダでは、政府より企業のほうが先に動いています。 オタワに本社を置くShopifyは、AI検索経由のストア流入が前年比8倍、AI経由の注文が同13倍に増えたと開示しました。
- 検索の入口は、Googleに大きく寄っています。 Statcounterの実測値でGoogleが85.72%、2位のBingが9.79%です(2026年6月)。
- 包括的なAI法案は廃案のままです。 AIDAを含むBill C-27は議会閉会で廃案となり、後継の国家AI戦略も新しいAI専用法には踏み込んでいません。制度の空白を待たずに、企業単位で先に動くのがこの市場の実像です。
この記事では、ある会社のマーケティング部の2人と、専門家の会話をはさみながら進めます。ご自身に近い立場の人が聞いているところから読んでいただいて構いません。
- 高梨課長(マーケ課長)— 「誰が、どれくらいの手間でやるんですか」を聞く役
- 大森部長(マーケティング部長)— 「それで投資に見合うのか」を聞く役
- 鈴木さん(AIO/SEOの専門家・本誌監修)— 答える役
01カナダのAI検索対策は、なぜ企業のほうが先に動いているんですか?
大森部長カナダの話をするなら、まず規制がどうなっているかだろう。そこが決まらないと、投資の判断はできないんじゃないか。
鈴木さん順番としてはそうなのですが、カナダは少し事情が違います。規制の側が止まっている間に、企業のほうが先に進んでいる市場なんですよ。
カナダのAI検索対応で最も特徴的な動きは、政府ではなく企業側から生まれています。
政府主導の包括的なAI法制化は、停滞が続いています。AI・データ法案(AIDA)を含むBill C-27は、2025年1月の議会閉会(プロローグ)により廃案となりました。後継の国家AI戦略「AI for All」も、新規のAI専用法には踏み込んでいません。
一方で企業側は、待っていません。オタワに本社を置くShopifyは、エージェントコマースの世界的なハブとなりつつあります。
この記事の読みどころは、そのずれです。 制度の空白を待つのか、企業単位で先に手をつけるのか。カナダから学べるのは、後者を選んだ市場の姿です。
この章のまとめ
カナダでは政府の法制化が止まる一方、企業側がAI検索チャネルへの対応を先行させています。
02Googleが85.72%のカナダで、AI検索対策はどこから見ればいいですか?
高梨課長現地の検索事情は、日本とそんなに違うものでしょうか。前提から外していると怖くて。
鈴木さん検索エンジンの顔ぶれは、むしろ日本より単純です。入口がほぼ1本に寄っていると考えていただければ大丈夫ですよ。
カナダの検索エンジン市場もGoogleが圧倒的優位です。ただし2位のBingは9%台と、一定の存在感を保っています。
| 検索エンジン | シェア |
|---|---|
| 85.72% | |
| Bing | 9.79% |
| Yahoo! | 2.34% |
| DuckDuckGo | 1.52% |
| Yandex | 0.30% |
| Ecosia | 0.19% |
出典: Statcounter(全デバイス合算・2026年6月)
数字を1つずつ追うより、棒の長さで眺めたほうが早いはずです。先頭だけが大きく伸び、そのあとは横一線に近いという形になっています。
この形は、打ち手の順番をそのまま決めてくれます。エンジンごとに手を分けるより、Google側での見え方を確かめることが先に来ます。
この章のまとめ
カナダの検索市場は、Googleが85.72%。2位のBingは9.79%です(2026年6月・Statcounter)。手を分ける前に、Google側の見え方から確かめます。
03このシェアの数字は、AI検索対策の判断材料としてどこまで使えますか?
数字を出した以上、その数字がどこまで持つのかも書いておきます。ここを飛ばすと、あとの判断がぶれます。
ここで挙げたシェアは、Statcounterという1つの調査だけに拠っています。CRTCや政府統計機関による独自データとの突合は、本稿執筆時点で確認できていません。
この調査は、加盟しているサイト群のページビューをタグで数える方式です。つまり、どんなサイトが加盟しているかで数字は動きます。 構成の偏りに由来する誤差が生じうる点は、頭に置いておいてください。
この章のまとめ
シェアは1つの調査に拠った数字です。政府統計との突合は未確認で、計測方式に由来する誤差もありえます。
04カナダでAI検索はどれくらい使われているんですか?
ここからは、書けることより書けないことのほうが多くなります。
世界全体で見ると、AIチャットボットを週次でニュースに使う人の割合は10%でした(前年は7%)。出典はReuters Institute Digital News Report 2026です。
一方で、カナダ単体の利用率は、本稿執筆時点で確認できていません。世界の値は手に入るのに、国別の内訳にはたどり着けていない、という状態です。
この章のまとめ
世界では、週次でAIチャットボットからニュースを得る人が10%。カナダ単体の数字には、本稿執筆時点でたどり着けていません。
05ニュースへの信頼度が37%の市場で、カナダのAI検索最適化は何を優先しますか?
国別の数字が何も無いわけではありません。信頼度のほうは、はっきりした値が出ています。
カナダのニュース全般への信頼度は37%で、世界平均と同水準です(前年比2ポイント低下・出典: Reuters Institute)。ただし、言語圏でばらつきがあります。
英語圏が35%、フランス語圏が44%です。同じ国の中で、情報の受け取られ方が分かれています。カナダ向けの発信を1本の方針でまとめる前に、この差は押さえておいてください。
同レポートでは、AIシステムがカナダのジャーナリズムを広く学習・再生成しているとの研究報告も紹介されています。
読み手が情報を疑いやすい市場でAI検索最適化(LLMOとも呼ばれます)に取り組むなら、力を入れる場所は絞れます。根拠をどこから取ったかを示すことが、相対的に効きやすいという見方です。
ただしこれは、「信頼度が低いから出典が効く」という因果が確かめられた話ではありません。市場の性質から方針を立てるとこうなる、という程度に受け取ってください。
この章のまとめ
信頼度は37%で世界平均と同水準ですが、英語圏35%・フランス語圏44%と分かれます。信頼性の設計を先に考える市場です。
06ShopifyのAI検索経由の流入が8倍というのは、何が起きた数字ですか?
大森部長8倍と言われても、元がいくつだったのかが分からない。それで本当に売上に効いているのかね。
鈴木さんおっしゃるとおり、倍率だけでは判断できません。ただこの数字は、同じ会社が2回続けて開示しているという点が効いてきます。
冒頭で触れた「企業のほうが先に動いている」の中身が、ここになります。オタワに本社を置くECプラットフォームのShopifyが、その代表例です。
OpenAIは2025年9月、ChatGPT上で決済まで完結する「エージェンティックコマース」機能を立ち上げました。その最初のパートナーに選ばれたのがShopifyです(出典: Shopify公式)。
同社の2026年第1四半期決算説明会(5月5日)では、AI検索経由のストア流入が前年比8倍に増加したと説明されました。AI検索経由の注文は同13倍に増加しています。新規購入者の注文は、他チャネルの約2倍のペースで発生しているといいます(出典: Shopify 2026年第1四半期決算説明会・Harley Finkelstein社長発言)。
この急拡大の内訳は、別記事『ECのAIO事例|AI経由の注文が11倍になった理由と5つの準備』で詳しく解説しています。同記事では、2025年1〜11月期の従来データ(流入7倍・注文11倍)との比較も扱っています。
倍率そのものより、2回の開示で一貫して増えている点が、この数字の読みどころです。
この章のまとめ
AI検索経由の流入は前年比8倍、注文は13倍と開示されました。ただしグローバル全体の集計値で、カナダ単体の内訳は未確認です。
07Agentic Storefrontsは、カナダのAI検索対策に何を求めますか?
数字の裏側で、Shopifyが用意したのが仕組みのほうです。
Shopifyは2026年1月、「Agentic Storefronts」を発表しました。ChatGPT・Google AI Mode・Microsoft Copilot・Geminiなど複数のAIチャネルを、管理画面から一元管理できる機能です。
ここから読み取れることは、はっきりしています。AI検索対策の対象が、1つのサービスではなくなったということです。チャネルごとに個別対応していては追いつかない、という前提で機能が設計されています。
カナダ向けにECを持つなら、確認する順番はこうなります。自社の情報が、AIエージェントから読み取れる形になっているか。そして、その情報が最新の状態に保たれているか。
この章のまとめ
複数のAIチャネルを1か所で扱う仕組みが登場しました。AI検索対策は、単一サービス向けの作業ではなくなっています。
08AIDAが廃案になったカナダで、AI対策の法的な前提はどうなっていますか?
高梨課長法律が無いということは、こちらは何も確認しなくていい、ということでしょうか。
鈴木さんそうはならないんです。AI専用法が無いだけで、既存の法制は動いています。 見る場所が変わる、と考えてください。
カナダには、AI検索そのものを直接規律する専用法が、本稿執筆時点で存在しません。
AIDAの廃案後、政府は新しい国家AI戦略「AI for All」を掲げました。ただし内容は、消費者プライバシー法制の近代化やオンライン安全法など、既存法制の更新が中心です。AIDAに相当する新しいAI専用法への言及はありません(出典: ISED公式)。
時系列で並べると、動きの形が見えます。AI専用法だけが止まり、その周辺は動き続けているという形です。
日本企業として見ておくのは、AI専用法の再提出そのものより、プライバシー法改正やオンライン安全法といった周辺の立法動向のほうになります。
この章のまとめ
AI専用法は廃案のままですが、周辺の法制は動いています。継続してウォッチするのは、そちらです。
09オンラインニュース法への対応は、カナダのAI検索対策に何を教えますか?
制度の中で、実務にいちばん近いのがこの法律です。
オンラインニュース法(Bill C-18)は、GoogleとMetaで対応が大きく分かれました。
Googleは、年間1億カナダドル(インフレ調整後)をカナダ・ジャーナリズム・コレクティブへ拠出する条件で、CRTCから5年間の適用除外を得ました(2024年10月28日決定)。
Metaは、同法の対象になることを避けるため、2023年以降カナダ国内のFacebook・Instagramでニュースコンテンツの掲載自体を停止しています。政府との交渉再開の動きは、本稿執筆時点で確認できていません。
同じ法律に対して、片方は払い、片方は降りた。 カナダ向けにニュース性のあるコンテンツを配信するなら、プラットフォームごとに掲載可否が違う前提で計画を立てることになります。
この章のまとめ
オンラインニュース法への対応はGoogleとMetaで分かれました。同じ制度でも、事業者ごとに結果が違います。
10生成AIチャットボットは、カナダのAI検索対策の対象になっているんですか?
では、その法律は生成AIまで届いているのか。ここは分けて確認しておく必要があります。
同法は現時点で、検索エンジン・ソーシャルメディアプラットフォームを対象としています。生成AIチャットボットを直接の適用対象とする条文は含まれていません。
ただし、この線引きが続くとは限りません。豪州のNews Bargaining IncentiveがAI企業を対象に含めるかを議論しているのと同様の論点が、カナダでも今後浮上する可能性があります。詳しくは別記事『豪州のAI検索とニュース対価|制度設計の経緯を追う』をご覧ください。
検索結果内で情報が完結しクリックが減る現象は「Google Zero」と呼ばれています。カナダのオンラインニュース法の背景にも、同様の問題意識があります。隣接する米国の状況は、別記事『米国のAI検索対策とは?』で解説しています。
この章のまとめ
生成AIチャットボットは、現時点で直接の適用対象になっていません。ただし線引きが動く論点として、追っておく価値があります。
11日本企業がカナダ向けのAI検索対策で、先に確認することは何ですか?
高梨課長ここまでの話を、担当者に渡せる形にしたいです。何から順に確認させればいいでしょうか。
鈴木さん3つに絞れます。制度の完成を待つ前に、手が届く範囲から始める。カナダから学べるのは、その順番です。
最後に、ここまでを日本企業の立場でやることに落とします。
先に確認する3つ
AIエージェントが読み取れる形にデータを整える
カナダ向けEC事業を持つなら、商材の属性・価格・在庫を構造化し、リアルタイムに反映する体制を優先して整備します
プラットフォームごとの掲載可否を確認する
ニュース性のあるコンテンツを配信するなら、掲載可否・引用条件が事業者ごとに違う前提で配信計画を組みます
周辺の立法動向をウォッチする
AI専用法は流動的です。プライバシー法改正やオンライン安全法など、動いている側を追います
1つ目がいちばん効きます。AI検索経由の購買導線が伸びていることは、開示された数字で確認できているからです。制度の完成を待つ理由には、なりません。
この章のまとめ
待つのではなく、データの構造化・掲載可否の確認・立法動向のウォッチの3つから始めます。
12よくある質問
カナダにAI・データ法(AIDA)は現在も存在しますか?
いいえ。AIDAを含むBill C-27は、2025年1月の議会閉会(プロローグ)により廃案となりました。本稿執筆時点で、後継の包括的なAI専用法は再提出されていません。
Shopifyのデータは日本のEC事業者にも当てはまりますか?
Shopifyが公表しているのはグローバル全体の集計値で、カナダ・日本市場限定の内訳は本稿執筆時点で確認できていません。ただしAI検索経由の流入・注文の急拡大は、直近2回の開示で一貫した増加傾向が報告されています。
カナダのオンラインニュース法はAI企業にも適用されますか?
現行のオンラインニュース法(Bill C-18)は、検索エンジン・ソーシャルメディアプラットフォームを対象とした制度です。生成AIチャットボットを直接の適用対象とする条文は、本稿執筆時点で確認できていません。
カナダのAIチャットボット利用率は分かりますか?
カナダ単体の利用率は、本稿執筆時点で確認できていません。世界全体では、週次でニュース目的にAIチャットボットを使う人が10%と報告されています(前年は7%)。
シェアの数字は、どこまで信頼できますか?
Statcounterという1つの調査に拠った数値です。加盟サイト群のページビューをタグで数える方式のため、サイト構成の偏りによる誤差が生じうる点に留意してください。政府統計機関のデータとの突合は確認できていません。
13まとめ|先に確認する3つのこと
カナダの検索市場は、Googleが85.72%を占めます。2位のBingは9.79%で、入口はほぼ1つに寄っています。一方でAI検索の国別利用データは薄く、カナダ単体の利用率は一次情報で確認できていません。
その代わりに厚いのが、企業側の情報です。ShopifyはAI検索経由の流入が前年比8倍、注文が13倍に増えたと開示し、複数のAIチャネルを一元管理する仕組みまで用意しました。制度のほうは、AI専用法が廃案のまま止まっています。
確認できたことと、できていないことを分けたまま社内に出す。 そのうえで、制度の完成を待たずに手の届く範囲から始める。カナダから持ち帰れるのは、この順番です。
もう一度、先に確認する3つ
データを構造化する
商材の属性・価格・在庫を、AIエージェントが読み取れる形に整えます
掲載可否を確認する
プラットフォームごとに条件が違う前提で、配信計画を組みます
立法動向をウォッチする
動いているのはAI専用法ではなく、その周辺です
AI検索では、こう聞かれています
カナダの検索エンジンシェアはどうなっていますか?
「Googleが85.72%のカナダで、AI検索対策はどこから見ればいいですか?」の章に、実測値の表と棒グラフがあります
カナダのAI・データ法(AIDA)はいまどうなっていますか?
「AIDAが廃案になったカナダで、AI対策の法的な前提はどうなっていますか?」の章に、法制の時系列があります
ShopifyのAI検索経由の流入はどれくらい増えたのですか?
「ShopifyのAI検索経由の流入が8倍というのは、何が起きた数字ですか?」の章で、2回の開示を並べて説明しています
日本企業は何から手をつければいいですか?
「日本企業がカナダ向けのAI検索対策で、先に確認することは何ですか?」の章に、手順があります
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