ベルギーという国名よりも、首都ブリュッセルの名前を先に思い浮かべる方は少なくないはずです。欧州委員会・EU理事会の本部が置かれ、AI Actの実務を担う欧州委員会AI Officeもここにあります。本稿は検索市場の実態と、EU規制の中枢としてのベルギーの立ち位置を一次情報から整理します。

01結論サマリー

欧州委員会の本部も、EU理事会の本部も、ベルギーの首都ブリュッセルに置かれています。検索エンジン市場ではGoogleが87.33%を占め(出典: Statcounter、2026年6月)、欧州の中では標準的な水準です。

  • AI Act(規則2024/1689)の実務を担う欧州委員会AI Officeは、ブリュッセルの欧州委員会内に設置されています
  • GoogleやBingを含む「非常に大規模なオンライン検索エンジン(VLOSE)」への監督権限も、主に欧州委員会自身が握っています

ベルギー国内の規制整備は、他の多くのEU加盟国と同様に道半ばです。FOD Economie(経済省)公式FAQによれば、国内の届出当局・市場監視当局の指定を含む体制整備は、本稿執筆時点で「現在進行中」です。加盟国は2025年8月2日までにこれらの当局を指定する義務がありましたが、この期限からすでに1年近くが経過しています(出典: FOD Economie公式)。日本企業がベルギー向けにコンテンツ・AIシステムを展開する際は、国内規制の整備状況だけでなく、EU全体のルールがどこで作られているかという視点を持つ必要があります。

02検索エンジン市場の実態(シェア実測)

ベルギーの検索エンジン市場は、Googleが優位を保ちながらも、欧州の標準的な構成にとどまります。

検索エンジンシェア
Google87.33%
Bing8.68%
Ecosia1.27%
Yahoo!1.06%
DuckDuckGo0.98%
Yandex0.43%

出典: Statcounter Global Stats(全デバイス合算・2026年6月)

ベルギーの検索エンジン市場シェア構成比(2026年6月) Statcounter実測データにもとづくドーナツ円グラフ。Google87.33%が大部分を占め、Bing8.68%・Ecosia1.27%・Yahoo!1.06%・DuckDuckGo0.98%・Yandex0.43%が続く。 SHARE ベルギーの検索エンジン市場シェア構成比(2026年6月) Google 87.33% Google 87.33% Bing 8.68% Ecosia 1.27% Yahoo! 1.06% DuckDuckGo 0.98% Yandex 0.43% 出典: Statcounter Global Stats(全デバイス合算・2026年6月)
ベルギーの検索エンジン市場シェアの構成比

ベルギーの87.33%は、別記事『オランダAI検索の監督構造|分散型規制とデジタル市場』が報告したオランダ86.84%よりやや高い水準です。別記事『欧州AIOの構造|EU共通規制と多言語市場を読み解く』が報告した欧州全域平均88.62%には、わずかに届きません。本稿のシェア数値はStatcounter単独の実測にもとづいており、ベルギー政府による独自統計との突合は本稿執筆時点で確認できていません。Statcounterは計測タグを設置したサイト群のページビューを集計する方式のため、サイト構成の偏りに由来する誤差が生じうる点にご留意ください。

03AI検索の普及状況

ベルギーのAIチャットボット市場では、ChatGPTが73.94%を占めています(出典: Statcounter、2026年6月)。

サービスシェア
ChatGPT73.94%
Microsoft Copilot8.25%
Google Gemini6.6%
Perplexity5.59%
Claude5.41%
Phind0.21%

出典: Statcounter Global Stats(AIチャットボット市場シェア、2026年6月)

Reuters Institute Digital News Report 2026(2026年6月16日公開)によれば、ベルギーの状況は以下の通りです。

  • インターネット普及率: 96%
  • ニュース全般への信頼度: 39%(前年比4ポイント低下)。言語圏別ではフラマン語圏49%・フランス語圏28%
  • 有料オンラインニュース購読率: 14%(前年比2ポイント低下)
  • 報道の自由度指数: 180か国中16位(スコア81.17)

同レポートは、フラマン語圏のメディアユーザーの43%が月1回以上生成AIを利用していると報告しています(前年比15ポイント増)。18〜24歳では75%、学生では81%に達します。主な用途は情報を素早く見つけることです(出典: Reuters Institute)。フランス語圏の同種の数値は、本稿執筆時点で確認できていません。

04現地の取り組み・実例

ベルギー国内の一企業がAI検索対策の成果を独自に公表した事例は、本稿執筆時点で一次情報から確認できませんでした。もっとも、この国で意味を持つ問いは「企業が何をしたか」ではなく「規制そのものがどこで作られているか」です。

欧州委員会・EU理事会の所在地を定めているのは、EUの基本条約に付属する議定書第6号です。同議定書は「The Commission shall have its seat in Brussels」と定めています。EU理事会についても同様に、ブリュッセルを本部と定める条文があります(出典: EU基本条約 議定書第6号)。欧州議会の本会議はストラスブールが正式な所在地ですが、委員会審議はブリュッセルで行われます。

ブリュッセルに集中するEU規制機関の構造 中心に「ブリュッセル」を置き、欧州委員会・EU理事会(議定書第6号による本部所在)、AI Act運用を担うAI Office(欧州委員会内設置)、DSA上のVLOSE(Google・Bing)への直接監督権限の3者を関係線で示す放射状の構造図。 MAP ブリュッセルに集中するEU規制機関の構造 ブリュッセル (EU本部所在地) 欧州委員会 EU理事会 (議定書第6号:本部所在) AI Office (欧州委員会内に設置) VLOSE監督 (Google・Bing) (欧州委員会が直接執行) 本部所在地(議定書第6号)・AI Office・VLOSE監督はいずれも欧州委員会が担う体制
ブリュッセルに集中するEU規制機関の構造図

欧州委員会は2024年5月29日、AI Actの実務を担う専門組織「AI Office」の設立を発表しました。5つのユニットで構成され、規制・コンプライアンス調整、高度な汎用AIモデルのシステミックリスク評価、行動規範の策定等を担います(出典: 欧州委員会公式)。同組織は欧州委員会内に設置されています。

DSA(デジタルサービス法)の執行体制にも同じ構図が表れています。GoogleとBingは2023年4月25日、「非常に大規模なオンライン検索エンジン(VLOSE)」に指定され、指定から4か月後の2023年8月25日から追加の義務の適用が始まりました。VLOSE・VLOP(非常に大規模なオンラインプラットフォーム)には、追加の義務が課されています。この監視・執行は、加盟国のデジタルサービス調整機関ではなく、主に欧州委員会自身が担っています(出典: 欧州委員会公式)。

05規制・政策

ベルギーの規制環境で最大の特徴は、EU加盟国としての義務に加え、EU本部所在国としての制度的な役割を併せ持つ点です。

制度時期概要
AI Act 発効2024年8月1日EU加盟国全体に適用される規則2024/1689(出典: EU官報)
国内当局の指定義務2025年8月2日が期限届出当局・市場監視当局を各国が最低1つずつ指定(出典: 欧州委員会公式)
ベルギー国内の指定状況本稿執筆時点で「現在進行中」FOD Economie(経済省)公式FAQが明記(出典: FOD Economie公式)

出典: EU官報/欧州委員会公式/FOD Economie公式

ベルギーは、国内当局を指定すべき期限(2025年8月2日)からすでに1年近くが経過した本稿執筆時点でも、指定作業を完了させていません。現地の法律専門家による報道では、電気通信・郵便分野の規制機関であるベルギー電気通信・郵便規制機構(BIPT)が主管庁の最有力候補とされています。ただし、ベルギー政府自身の一次情報から指定の確定を直接確認することは、本稿執筆時点でできませんでした。

データ保護分野では、ベルギーデータ保護機関(APD/GBA)がGDPRの執行を担っています。同機関は自身のサイトの市民向けテーマ一覧に、Covid-19やカメラ、与信等と並んで「人工知能」を掲載しており、GDPRとAI Actの関係は複雑であるとしたうえで、AIシステムの開発者・運用者向けの解説ページを公開しています(出典: APD公式)。

EU全体の適用スケジュールでは、単体型の高リスクAIシステム(附属書III)の完全適用が延期されています。2026年6月16日、欧州議会本会議でDigital Omnibus on AIが採択されました。これにより、当初の2026年8月2日から2027年12月2日への延期が決まりました(出典: 欧州議会公式)。

この2層構造は別記事『欧州AIOの構造|EU共通規制と多言語市場を読み解く』が整理したとおり、ベルギーにもそのまま当てはまります。条文の詳しい構造は、別記事『EU AI ActとAI検索|リスク区分・適用時期・実務影響』で解説しています。

06日本企業への示唆

  1. ベルギー向けの規制動向を確認する際は、国内当局(FOD Economie・APD等)に加え、欧州委員会自身の発表(AI Office・DSA VLOSE関連)も定点確認してください。 ベルギーはEU規則そのものが作られる場所であり、国内固有の規制よりEU規則本体の改正が先に実務へ影響する可能性があります。
  2. GoogleやBingが負うVLOSEの追加義務の執行状況は、欧州委員会の公式発表で確認することをおすすめします。 ベルギー国内当局ではなく欧州委員会が直接監督するため、情報源を混同しないよう注意してください。
  3. AI Actの高リスクシステム規制やGPAI義務の適用スケジュールは、Digital Omnibus on AIによる延期を反映した最新版を確認してください。 附属書III(単体型高リスクAI)の完全適用は2027年12月2日です。
  4. ベルギー国内の届出当局・市場監視当局の指定状況を、FOD Economie公式サイトで定期的に確認してください。 指定が確定次第、実務上の問い合わせ窓口が変わる可能性があります。

欧州本社の集積地という切り口が近いオランダとの比較は、別記事『オランダAI検索の監督構造|分散型規制とデジタル市場』をご覧ください。AI Actの条文構造そのものを深く理解したい場合は、別記事『EU AI ActとAI検索|リスク区分・適用時期・実務影響』が参考になります。AIOの基礎整理は、別記事『AIOとは何か?SEOとの違い・共通点から始め方まで徹底解説』をご覧ください。

07FAQ

Q. ベルギーにEU AI Actは適用されますか?

はい。ベルギーはEU加盟国であり、規則2024/1689が直接適用されます。発効は2024年8月1日、大部分の規定の適用開始は2026年8月2日です。単体型の高リスクAIシステム(附属書III)は2027年12月2日へ延期されています(出典: EU官報、欧州議会公式)。

Q. ベルギーのAI Act国内当局はどこですか?

本稿執筆時点で、ベルギー政府の一次情報から確定を直接確認することはできませんでした。現地報道では電気通信・郵便規制機構(BIPT)が有力候補とされています。指定義務の期限(2025年8月2日)から1年近く経過した現在も、経済省(FOD Economie)公式FAQは体制整備を「現在進行中」としています。

Q. なぜベルギーにEUの主要機関が集中しているのですか?

EUの基本条約に付属する議定書第6号が、欧州委員会とEU理事会の本部をブリュッセルに置くと定めているためです。欧州議会の本会議はストラスブールですが、委員会審議はブリュッセルで行われます(出典: EU基本条約 議定書第6号)。