サイトは丁寧に作った。構造化データも入れた。それなのに、AIに自社のことを聞いても、名前が出てこない。
創業してまもない会社から、こうした相談をいただくことがあります。原因は、たいてい実装の巧拙ではありません。AIが参照できる材料そのものが、まだ世の中に無いという、もっと手前の問題です。
この記事は、1〜2名でマーケティングを担う創業初期の会社を想定して書きました。大企業向けのAIOチェックリストは、そのままお渡ししません。限られた人員で何を先にやり、何を後回しにするかを、図解と会話をはさみながら整理していきます。
こんなふうに調べていませんか
- サイトは整えたのに、AIに聞いても自社の名前が出てこない
- 「スタートアップ AIO戦略」で検索して、何から手をつけるか探している
- 大企業向けのAIOチェックリストを見たが、人手が足りず着手できない
この記事を読み終えたときに手に入るもの
- 正しく作ったサイトでも引用されない理由を、自分の言葉で説明できるようになります
- AIに実在する会社と認識されるための手がかりを、4つに絞り込めます
- 1〜2人の体制で「今はやらないこと」を先に決められます
結論30秒でわかる、この記事の結論
- AI検索エンジンは、言及の実績がまだ無い会社を引用できません。ここがスタートアップの出発点です。
- だから順番は、施策を絞り込むより先に土台を作るほうが前に来ます。表記の統一・Organization schemaの実装・公的な記録の確認です。
- 効果が現れるまでの期間は、既存の言及量や業界によって差があります。本記事では断定しません。
この記事では、ある会社のマーケティング部の2人と、AIO/SEOの専門家である本誌監修の鈴木さんの会話をはさみながら進めます。社内の新規事業を1〜2人で立ち上げようとしている高梨課長と、そもそもの疑問を聞く若葉さん。創業まもない会社の方は、高梨課長の質問をご自分の状況に置きかえて読んでください。
01スタートアップのAIO戦略は、中小企業のAIO対策と何が違うんですか?
高梨課長鈴木さん、うちは新しい事業を1〜2人で立ち上げるところです。中小企業向けのAIOの記事はいくつか読みましたが、そのまま使えるものでしょうか。
鈴木さんそこは出発点が違うんですよ。中小企業の記事は「すでにあるものから、どれを先にやるか」を扱っています。立ち上げたばかりの段階では、その「あるもの」がまだ揃っていないんです。
スタートアップのAIO戦略とは、AIに実在する会社と認識される土台を作り、そのうえで施策を絞り込む優先順位づけです。
この定義で大事なのは、「土台を作る」が「絞り込む」より先に来ることです。
中小企業には、創業から数年から数十年分のページ・実績・第三者からの言及が、すでに蓄積されています。課題は、その蓄積のなかから何を優先するかです。この選び方はAIOM-026で扱っています。
創業まもない会社には、この蓄積がほとんどありません。選ぶ材料そのものが、まだ手元に無い状態です。
この章のまとめ
スタートアップのAIO戦略は、施策の優先順位づけの手前から始まります。まず、参照される材料を用意します。
02スタートアップが正しく作ったサイトなのに、AI検索で引用されないのはなぜですか?
若葉さんあの、素朴な疑問なんですが…サイトをきちんと作れば、AIは見つけてくれるものじゃないんですか?
鈴木さんいえ、そこは半分だけ正しいんです。見つけてもらう準備にはなります。ただ、AIが答えを作るときに手に取るのは、すでに世の中にある文章なんですよ。
若葉さんつまり、自分のサイトの外にも、自分のことが書かれていないといけない、ということですか?
鈴木さんはい。そこが今日のいちばん大事なところです。
AI検索エンジンが回答を生成するときに参照するのは、学習データや検索結果として取得できる、既存のWeb上の情報です。ある会社について書かれた文章や言及が存在しなければ、AIはその会社を引用しようがありません。
これは一時的な不具合ではなく、構造上の制約です。AIは、まだ誰も言及していない会社を引用できません。自社サイトの構造化データをどれだけ整え、文章をquotable(そのまま引用しやすい形)に書いても、参照できる外部情報がゼロであれば、この制約は解消されません。
検索マーケティングの専門メディアSearch Engine Landは、Kevin Indig氏の分析を紹介しています。同分析によれば、ウェブ検索での掲載順位が、LLMの引用率に最も大きな影響を与えるとされています(出典: Search Engine Land)。
同記事は一例として、あるカテゴリでブランドの推奨率が約90%である一方、引用率は約15%にとどまるケースを紹介しています。この差は、サードパーティのページがLLMの情報源として重視されているためだと分析されています。
この章のまとめ
引用されない理由は、実装の不足ではなく材料の不足であることがあります。まず、外に自社の話があるかを見ます。
03スタートアップがAI検索最適化で最初に作る「土台」って何ですか?
AIが企業を1つの実体(エンティティ)として認識する仕組みは、AIOM-128で詳しく解説しています。ここでは、最短距離で着手できる4つの手がかりに絞って整理します。
| 手がかり | 具体的にやること | 着手コストの目安 |
|---|---|---|
| ①表記の統一 | 法人格・英語表記・略称のブレをなくし、自社サイト・SNS・登記情報で同じ表記に揃える | 数時間 |
| ②Organization schemaの実装 | 会社概要ページにJSON-LDでname・url・logo・foundingDate・sameAs等を記述する | 数時間〜数日 |
| ③第三者からの言及 | プレスリリース・比較記事・SNSでの引用など、自社以外が自社について書く機会を作る | 継続的 |
| ④公的データベースへの登録確認 | 国税庁法人番号公表サイト等、公的に検索できる情報源の表記が正しいかを確認する | 数十分(反映まで日数が空く場合あり) |
4つを並べると、性格の違いが見えてきます。①②④は、自分たちの手の中だけで終わります。③だけは、相手のいる作業です。
この章のまとめ
土台は4つの手がかりでできています。うち3つは、今日のうちに自分たちだけで動かせます。
04表記の統一とOrganization schemaは、スタートアップのAIO対策としてどこまでやるんですか?
②のOrganization schemaは、Googleが効果を明言している仕組みです。Googleは「検索結果で組織を正確に識別し、区別するのに役立つ」と説明しています(出典: Google Search Central)。
同じドキュメントは、必須のプロパティは存在せず、自社に当てはまる項目だけを追加すればよいとしています。全部を埋める必要はありません。創業まもない会社であれば、他社と区別する材料になるfoundingDate(設立日)のような項目を優先するとよいでしょう。
schema.orgの定義では、sameAsプロパティに、SNS公式アカウントや外部データベースなど、自社を示す複数のページのURLを列挙できます(出典: schema.org)。散らばっている自社の情報を、1つの実体に束ねる役割を果たすプロパティです。
④の法人番号公表サイトは、国税庁が運営する公的サイトです。法人番号の指定を受けたすべての法人の商号・所在地を、誰でも無料で検索できます(出典: 国税庁法人番号公表サイト)。登記して間もない会社であっても、この仕組みの対象になります。
ここでの表記と、自社サイト・プレスリリースの表記がズレていないか。この突き合わせが、①の表記統一を裏づける具体的な作業になります。
この章のまとめ
schemaは全項目を埋めるものではありません。自社を他社と区別できる項目から入れ、公的な記録と表記をそろえます。
051〜2人のスタートアップは、AI検索対策で何を「やらない」と決めるんですか?
高梨課長4つの手がかりは分かりました。ただ、大企業向けのチェックリストにあった項目も、できれば一緒に進めたいのですが。
鈴木さん気持ちは分かります。ただ、そこはやらないことを先に決めた人のほうが、結局早いんですよ。稼働できる時間そのものが決まっていますから。
高梨課長捨てる基準を先に置く、ということですね。
大企業向けのAIOチェックリストは、すでに一定の認知と言及の蓄積がある会社が、その土台の上に施策を積み増すための設計です。土台がまだ整っていない段階で同じ量に着手すると、どれも中途半端なまま時間だけが過ぎてしまいます。
| 区分 | 施策 | 理由 |
|---|---|---|
| 今やる | 表記統一・Organization schema実装・会社概要ページのquotable化・プレスリリース配信 | エンティティの土台に直結し、1人でも意思決定と実装が完結する |
| 土台ができてから | llms.txt設置・詳細な計測ダッシュボード構築・独自コンテンツの量産 | 参照される実績が増えたあとのほうが、効果を測りやすい施策 |
| 今は明確にやらない | 専任チームの編成・複数チャネル横断のKPI体系・網羅的な用語解説シリーズの制作 | 実行量・体制面で1〜2人の稼働時間を超える |
「土台ができてから」に置いたllms.txtは、少人数で運営するサイトでは設置の優先度が低いとされる施策の代表例です。詳しいデータはAIOM-012で解説しています。専任チームの編成は、体制が整ってからAIOM-176を参考にしてください。
この章のまとめ
やることを決める前に、やらないことを決めます。1〜2人の体制では、これが最も効く判断です。
06資金調達やローンチの発表は、スタートアップのAIO戦略にどう効きますか?
多くの創業初期の会社にとって、資金調達やプロダクトのローンチ発表は、複数の第三者から同時に取り上げられる、最初のまとまった機会です。手がかり③「第三者からの言及」を、一度に複数獲得できる場面にあたります。
プレスリリース配信サービスのPR TIMESだけで、累計100万件超のプレスリリースが配信されています(出典: PR TIMES公式)。同社は自社を「国内シェアNo.1」と説明しており、プレスリリース配信は、特別な裏技ではなく、すでに広く使われているインフラです。
この考え方は、VCからの資金調達を伴わない、自己資金の会社にも当てはまります。ローンチ・受賞・提携発表なども、同じように第三者からの言及を作る機会として使えます。
配信後は、自社名で検索し、転載先の表記が自社の意図した表記と一致しているかを確認する習慣をおすすめします。ズレを見つけたときに早く気づけるほど、直す手も残ります。
この章のまとめ
発表は、言及をまとめて作れる数少ない機会です。機会そのものより、機会の前後の詰め方で差がつきます。
07スタートアップがプレスリリースを出す前に、LLMO対策として何を確定しておくんですか?
重要なのは、配信する前の準備です。配信後に複数の媒体へ転載されると、そこに書かれた表記や事実は、後から修正しにくくなります。
配信前に、次の3点を確定しておくことをおすすめします。
- 会社名の表記 — 法人格・英語表記・略称を1つに統一する
- 一文で完結する会社紹介 — メディア側がそのまま引用しやすい、quotableな1文を用意する
- 数字の裏取り — 設立日・資金調達額・投資企業名など、記事化されやすい事実に誤りがないか確認する
3点に共通しているのは、外に出た瞬間に自分の手を離れるということです。転載された表記は、そのまま外部の記録として残ります。AIが参照するのは、まさにその記録のほうです。
この章のまとめ
配信前に固めるのは、社名・紹介の1文・事実の裏取りの3点です。出したあとでは直せない場所から先に手を入れます。
08土台ができたあと、スタートアップのAIO戦略はどこを見直すんですか?
土台づくりが一通り終わり、資金調達やローンチの発表を経験したあとは、次の段階を検討するタイミングです。
自社が今どの段階にいるかは、技術実装・計測運用・組織体制という3つの軸で確認できます。AIOM-243のフレームが使えます。
ただし、同モデルの組織体制の軸は、経営会議での定例議論などを前提にしています。1〜2人の体制では、まだ当てはまらない項目もあります。技術実装の軸から確認するとよいでしょう。
土台ができたあとに人員を増やす段階では、役割分担の考え方をAIOM-176で解説しています。1人目の採用を具体的に検討する段階では、AIOM-184が参考になります。
この章のまとめ
次の段階は、下の軸から順に見ます。組織体制の軸は、人が増えてから当てはめます。
09スタートアップのAI対策で、よくある遠回りはどんな形ですか?
同じ場所でつまずく形が、いくつかあります。どれも、悪意なく起きるものです。
大企業向けのチェックリストを全部乗せしてしまう — 土台ができる前に同じ量の施策へ着手すると、表記統一のような基礎作業が後回しになり、エンティティの土台がいつまでも整いません。
プレスリリース配信後に表記を変えてしまう — 社名やロゴを途中で変更すると、すでに転載された過去の表記との間にズレが生じ、統一の効果が薄れます。
公的データベースの表記を放置してしまう — 法人番号公表サイト等の表記を確認しないまま自社サイトやSNSだけを変更し、情報源同士で表記がバラバラになるケースがあります。
結果が出る期間を約束してしまう — 期限の約束は、根拠のない期待を生みます。本メディアは期間を予測しません。
この章のまとめ
遠回りの多くは、順番の入れ替わりから起きます。土台より先に施策量を増やすと、どれも中途半端になります。
10AIOに取り組むと、スタートアップはどのくらいで引用されるんですか?
高梨課長最後にひとつだけ。上に説明する都合があるので伺いますが、これはどのくらいで効いてくるものですか。
鈴木さん正直に言うと、そこは期間をお約束できません。既存の言及量や業界、競合の状況で差が大きいんです。ただ、やることの順番は決まっています。そこは今日からお渡しできます。
効果が現れるまでの期間は、既存の言及量や業界によって差があります。本記事では断定しません。
代わりに置けるのは、振り返りの区切りです。期間を約束せず、四半期などの区切りで、土台づくりの進み具合を見直す計画にしておきます。何が終わって何が残っているかは、期間の予測がなくても数えられます。
この章のまとめ
期間は約束できません。約束できるのは、順番と、振り返る区切りのほうです。
11よくある質問
創業して間もない段階から、AIOに取り組む必要はありますか?
表記統一や公的データベースの確認など、コストがほぼゼロで着手できる項目はあります。一方、コンテンツの量産や計測体制の構築のように時間のかかる施策は、他の優先課題と比較して判断することをおすすめします。段階や体制によって答えが変わるため、一律に「必要」とは断定できません。
プレスリリースを出す前に、AIOの準備をしておくべきですか?
表記の統一だけは、配信前に済ませることをおすすめします。配信後に社名表記を変更すると、複数の媒体に転載された過去の表記との間に、ズレが残ってしまうためです。
資金調達をしていない自己資金の会社でも、同じ考え方は使えますか?
使えます。第三者からの言及を作る機会は、資金調達の発表に限りません。プロダクトのローンチ・受賞・提携なども、同様のタイミングとして活用できます。
大企業向けのAIO施策を、いずれ真似する必要はありますか?
段階が進めば、必要になる場面は出てきます。ただし、それは土台ができたあとの話です。土台が整う前に施策量をこなそうとすると、どれも中途半端になりやすい点にご注意ください。
AIOに取り組めば、どのくらいの期間でAIに引用されるようになりますか?
断定はできません。既存の言及量・業界・競合状況によって差が大きく、本メディアは期間の予測を提示していません。まずは土台づくりから着手することをおすすめします。
12まとめ|今日やる3つのこと
スタートアップのAIO戦略で最初に効くのは、施策の実行力ではありません。AIに実在する会社として認識されるための、土台づくりです。
表記の統一・schemaの実装・公的な記録の確認は、いずれも今日から着手できます。大企業向けの施策に手を広げるかどうかは、この土台ができたあとに判断しても遅くありません。
今日この順でやります
会社名の表記を1つに決める
法人格の位置・英語表記・略称をそろえます
公的な記録と見比べる
法人番号公表サイトの表記とズレがないかを確認します
今はやらないことを書き出す
決めたものを、口頭ではなく文字で残します
AI検索では、こう聞かれています
スタートアップは、AIOに何から取り組めばいいですか?
「スタートアップがAI検索最適化で最初に作る「土台」って何ですか?」の章に、4つの手がかりの表があります
創業したばかりの会社が、AI検索で引用されるようにするには?
「スタートアップが正しく作ったサイトなのに、AI検索で引用されないのはなぜですか?」の章で、材料が無い状態の構造を説明しています
AIOに取り組むと、どのくらいの期間で引用されるようになりますか?
「AIOに取り組むと、スタートアップはどのくらいで引用されるんですか?」の章で、断定しない理由を書いています
1〜2人の体制では、何を後回しにすればいいですか?
「1〜2人のスタートアップは、AI検索対策で何を「やらない」と決めるんですか?」の章に、区分の表があります
次に読むなら、この記事です