「イギリス向けのページも、そろそろAI検索を意識したほうがいい」。そう言われて調べ始めると、聞き慣れない機関の名前と略称ばかりが並びます。どこを読めば実務の話にたどり着くのか、つかみにくい国です。
先に結論だけ言ってしまいます。イギリスでAI検索の見え方そのものに手を入れているのは、AI安全性の研究機関ではありません。競争を見張る役所です。ここを取り違えると、読む資料をまるごと間違えることになります。
この記事は、イギリス向けにコンテンツやサービスを展開する予定のある、Web担当・マーケティング部の方に向けて書きました。検索市場の実測値、規制の担い手、日本企業が確認する点までを、図解と会話をはさみながら整理します。専門用語は、出てきたその場で言い換えます。
こんなふうに調べていませんか
- イギリスにAI検索を規制する法律があるのか知りたい
- AI Security Instituteという名前を見かけたが、何をしている機関か分からない
- イギリス向けのサイトで、AI検索対策として何を確認すべきか探している
この記事を読み終えたときに手に入るもの
- CMAとAI Security Instituteの役割の違いを、社内で説明できるようになります
- イギリスの検索市場の姿を、実測データを根拠に示せるようになります
- イギリス向けサイトで確認する点が、3つに絞れます
結論30秒でわかる、この記事の結論
- イギリスでAI検索の設計に最も強く介入しているのは、AI安全性の研究機関ではなく、競争市場庁(CMA)です。
- CMAは、出版社がAI Overviewsでの自社コンテンツ利用を拒否できる行為要件を発効させました。CMAはこれを世界初の要件と説明しています。
- 検索市場はGoogleが91.19%(Statcounter)。一方で読者のAI回答への信頼度は6%にとどまり、根拠の見せ方が効きやすい市場です。
この記事では、あるBtoB企業のマーケティング部の若葉さん・大森部長と、AIO/SEOの専門家であり本誌監修の鈴木さんの会話をはさみながら進めます。ご自身に近い立場の人の質問から読んでいただいて構いません。
- 若葉さん(Web担当)— 「そもそも、それって何ですか?」を聞く役
- 大森部長(マーケ部長)— 「経営として、どこがリスクか」を聞く役
- 鈴木さん(AIO/SEOの専門家・本誌監修)— 答える役
01そもそもイギリスのAI検索対策は、誰が決めているんですか?
若葉さんイギリスのAI検索について調べていたら、AI Security Instituteという機関が出てきました。ここがルールを作っているんですか?
鈴木さんいい質問です。実はそこ、多くの方が最初につまずくところなんですよ。AI検索の商慣行に手を入れているのは、別の役所なんです。
イギリスには、AIをまとめて規律する法律がありません。EUのAI Actにあたるものが無い、ということです(出典: House of Commons Library)。
代わりに採られているのが、AIが使われている場面ごとに、もともとその分野を担当していた役所が受け持つという考え方です。AIという新しい箱を作るのではなく、既にある役所の守備範囲にAIを流し込む形だと考えると、イメージしやすいはずです。
そのため、AI検索という1つのテーマに、性格の違う機関が並びます。競争と消費者の分野は競争市場庁(CMA)、データ保護は情報コミッショナー事務局(ICO)、国家安全保障に関わるリスク評価はAI Security Instituteです。
この3つのうち、AI検索の見え方そのものに手を入れているのはCMAです。残りの2つは、AI検索の表示のされ方や引用のされ方を直接動かす立場にはありません。
日本から英語の記事を読んでいると、AIの安全性をめぐる議論のほうが目立ちます。実務で追う情報源はそこではない、とまず押さえてください。
この章のまとめ
イギリスにAI専用の包括的な法律はありません。分野ごとの担当官庁が受け持ち、AI検索ではCMAが前に出ています。
02イギリスの検索市場は、AI検索最適化の前提としてどうなっていますか?
規制の話に入る前に、土台になる市場の姿を数字で確認しておきます。イギリスの検索エンジン市場は、Googleの寡占状態が続いています。
| 検索エンジン | シェア |
|---|---|
| 91.19% | |
| Bing | 6.22% |
| Yahoo! | 1.25% |
| DuckDuckGo | 0.71% |
| Ecosia | 0.32% |
| Yandex | 0.27% |
出典: Statcounter Global Stats(全デバイス合算)
Googleが9割超を占め、Bing以下はいずれも1桁台です。イギリス向けのAI検索最適化では、Googleの検索とAI機能をどう見るかが、そのまま市場の大半を見ることになります。
検索エンジンごとに対応を分ける発想が現実的な市場ではありません。だからこそ、Googleに規制が入ったときの影響が大きくなります。
この章のまとめ
イギリスはGoogleが9割超を占める市場です。対策の対象が絞りやすい反面、Googleへの規制が市場全体に効きます。
03イギリスでAI検索は、どれくらい使われているんですか?
大森部長規制の話の前に確認したい。イギリスの読者は、そもそもAIの答えをどれくらい使っているんだ。使われていないなら、優先度を下げる判断もありうる。
鈴木さんそこは意外な数字が出ていまして、イギリスは調査対象の中でいちばん低い水準なんですよ。ただ、それをどう読むかは分けて考えたほうがよさそうです。
イギリスでAIチャットボットを週次でニュース目的に利用する人の割合は4%です。これは調査対象48市場の中で最も低い水準でした(出典: Reuters Institute Digital News Report 2026)。この数値は前年から横ばいでした。
数字だけを見ると、優先度を下げたくなるかもしれません。ただ、ここで判断を止めるのは早すぎます。
利用率が低いことと、AI検索対策が要らないことは、同じ意味ではありません。 イギリスは、規制の側からAI検索の設計に踏み込んだ介入が始まっている市場でもあります。市場の広がり方とルールの動き方は、同じ速さでは進みません。
この章のまとめ
イギリスのAIチャットボット利用は、ニュース目的では調査対象の中で最も低い水準です。ただし規制の動きはそれと切り離して追う必要があります。
04AI検索の答えが信用されていない市場で、LLMO対策に意味はあるんですか?
利用率と並んで、もう1つ特徴的な数字があります。読者がAIの答えをどれくらい信用しているかです。
イギリスのAI回答への信頼度は6%にとどまり、世界平均の20%を大きく下回ります。一方で、通常のニュース報道への信頼度はイギリスで30%です。こちらは世界平均37%より7ポイント低い水準ですが、AI回答への信頼度よりは高い数字です。
ここから読み取れるのは、イギリスの読者は、AI検索の便利さよりも情報の正確さへの疑いを強く持っているという傾向です。この受けとめ方は、後で見るCMAの規制強化とも方向が揃っています。
では、信用されていない市場でLLMO(大規模言語モデル向けの最適化。AI検索最適化とほぼ同じ意味で使われます)に取り組む意味はあるのか。あります。むしろ、根拠を見せる書き方の差が出やすい市場だと考えられます。
AIの答えの中に名前が出たとき、読者はその情報源を確かめにきます。そのとき、一次情報へのリンクと書き手の専門性が見えるページは、疑いの目に耐えます。逆に、根拠のない断定が並ぶページは、そこで読者を失います。
この章のまとめ
イギリスの読者はAI回答への信頼度が低く、報道への信頼度のほうが高い状態です。根拠の見せ方が効きやすい市場だと読めます。
05CMAの世界初の行為要件は、イギリスのAI検索対策にどう効くんですか?
大森部長規制が入ったという話だが、うちのようなメーカーにも関係するのか。それとも報道機関だけの話か。
鈴木さん直接の対象と、先例としての意味は分けて見たほうがよさそうです。順番に整理しますね。
ここが、イギリスをわざわざ取り上げる理由です。
CMAは2025年10月10日、Googleの一般検索・検索広告サービスに「戦略的市場地位(SMS)」を認定しました。これは、その市場で特別に強い立場にある事業者だと公式に位置づける、という意味です。根拠になっているのはDigital Markets, Competition and Consumers Act 2024です。
この認定を受けて、CMAは2026年6月3日に「パブリッシャー行為要件」を発効させました。中身はこうです。
- 出版社は、自社コンテンツがAI Overviews等のAI機能で使われることを拒否できる
- AIモデルの微調整(fine-tuning。既存のモデルを追加学習で調整すること)への利用も制限できる
CMAのサラ・カーデル長官は、この措置を世界初の要件と説明しています(出典: gov.uk)。さらに2026年6月17日には、検索結果のランキングの透明性と、データポータビリティ(自社のデータを持ち出せること)に関する行為要件も発効しました。
この章のまとめ
CMAはGoogleに戦略的市場地位を認定し、出版社がAI機能での利用を拒否できる行為要件を発効させました。CMAはこれを世界初と説明しています。
06出版社が拒否できるようになると、AI検索の見え方は何が変わるんですか?
前の章の行為要件は、条文だけを読むと地味に見えます。ただ、規制が手を伸ばした場所が、これまでと変わっています。
これまでの競争法の議論は、検索結果の並び順の付け方や、広告枠の扱いが中心でした。「どう並べるか」が論点だった、ということです。
今回の行為要件が扱っているのは、並び順ではありません。AIが自社の文章を、答えの材料としてどう使うかです。使われることそのものを断れる、という形になっています。
並び順の議論であれば、順位を上げる工夫の話に落ちます。使われ方の議論になると、自社の文章がどこに、どう取り込まれているのかを把握しているかが問われます。
この章のまとめ
規制の対象が、検索結果の並び順から、AIの答えの材料としての使われ方へ移りました。自社の文章がどう使われるかを把握する視点が要ります。
07AI検索の専用法がないのに、イギリスで規律が効くのはなぜですか?
前の章で見たとおり、イギリスにはAI検索を名指しする専用の法律がありません。それなのに、世界でも踏み込んだ介入が実現しています。理由は、新しい法律を待たずに、既にある競争法の権限を使ったからです。
CMAが根拠にしているのは、Digital Markets, Competition and Consumers Act 2024です。この法律は、デジタル市場で特別に強い立場にある事業者を指定し、その事業者に個別の行為要件を課せる仕組みを持っています。AIという言葉を使わずに、AI機能の使われ方に条件を付けられるわけです。
どちらの進め方が優れているか、という話ではありません。実務で意味があるのは、「AI規制法がまだ無いから、この国はまだ動いていない」という読み方が成り立たないという点です。AIと名の付く法律だけを探していると、競争法の側から来る動きを見落とします。
この章のまとめ
イギリスは新法を待たず、既存の競争法の権限でAI機能の使われ方に条件を課しました。AI法の有無だけで進み具合を判断できません。
08AI安全性の研究機関は、イギリスのAI検索と何の関係があるんですか?
若葉さんAI Security Instituteは、結局のところAI検索とは関係ない機関ということですか?
鈴木さん関係がまったく無いわけではないのですが、担当している場所が違うと考えていただくのが近いです。
イギリスは2025年2月、AI Safety InstituteをAI Security Instituteへ改称しました。名称の変更にとどまらず、国家安全保障の領域へ重心を移す動きです。
この機関が主軸にしているのは、化学・生物兵器の開発やサイバー攻撃など、国家安全保障に関わるリスクの評価です(出典: gov.uk)。研究と評価が役割であり、企業の商慣行に条件を課す立場ではありません。
つまり、AI検索の商慣行に直接介入しているのはCMAであり、AI Security Instituteではありません。 名前にAIが入っている機関のほうが目に入りやすいので、ここは意識して切り分けてください。
この章のまとめ
AI Security Instituteは国家安全保障に関わるリスク評価が主軸です。AI検索の商慣行に条件を課しているのはCMAです。
09GSCの生成AIレポートがイギリス先行なのは、AI検索対策と関係ありますか?
規制の話は、計測の話にもつながっています。
Google Search Consoleの「生成AIパフォーマンスレポート」は、2026年6月3日に発表されました。イギリスのサイト運営者から先行して展開されています(出典: Google Search Central Blog)。この先行展開の背景には、CMAがGoogleに課した行為要件があります。
ここから、日本企業にとって実務的な意味が1つ出てきます。イギリス拠点やイギリス向けのプロパティを持っている場合、日本本社より早く新しい指標を確認できる可能性があります。
自社にイギリス向けのプロパティがあるなら、AI経由の流入をどう計測するかを先に固めておく手があります。他の地域へ広がったときに横展開できるからです。
レポートで何が見えるのか、月次の分析にどう落とすのかは別記事で扱っています。この記事では「なぜイギリスが先だったのか」を押さえてください。
この章のまとめ
生成AIパフォーマンスレポートのイギリス先行は、CMAの行為要件と地続きです。イギリス向けプロパティは計測の試し場所になりえます。
10AI企業が自分から配るお金と、イギリスのAI検索規制は何が違うんですか?
コンテンツを作る側にどう報いるか、という論点には、実は2つの向きがあります。
1つは、AI企業が自主的に収益を分ける動きです。Perplexityが2025年8月に開始した収益分配の仕組みが、その例にあたります。仕組みの中身は別記事で解説しています。
もう1つが、イギリスのように規制の側が、拒否できる権利を義務として課す動きです。CMAのパブリッシャー行為要件がこれにあたります。
この2つは対立していません。同じ課題に、別の方向から手を伸ばしていると捉えるほうが実態に近いはずです。片方だけを見ていると、業界の動きを読み違えます。
なお、AIの答えの中で情報が完結してクリックが発生しない、という懸念はイギリスでも共通します。この論点は別記事で扱っています。
この章のまとめ
AI企業による自主的な収益分配と、規制による拒否権の義務化は並行して進んでいます。片方だけを見ないでください。
11日本企業がイギリス向けにやるAI対策は、どこから手をつけますか?
大森部長話はよく分かった。それで、うちがイギリス向けに展開するなら、何を優先して確認すればいい。
鈴木さん3点に整理します。計測の先取り・適用範囲の見きわめ・根拠の見せ方、この3つです。
イギリス向けにコンテンツを展開する日本企業は、次の3点を確認しておくことをおすすめします。
この3点を確認します
生成AIパフォーマンスレポートを、イギリス向けプロパティで先に確認する
イギリス向けのプロパティを持つ場合、日本本社より早く新しい指標を確認し、計測体制に反映できる可能性があります
CMAの行為要件が、自社にどこまで及ぶかを見きわめる
当面はGoogleとイギリスのニュース出版社の関係が対象です。一般企業サイトへの直接適用は本稿執筆時点で確認できていません
イギリス向けの記事で、根拠の見せ方を優先課題にする
読者のAI回答への信頼度が6%、ニュース報道への信頼度が30%という市場です。一次情報へのリンクと著者の専門性の明示を先に整えます
2点目について補足します。CMAの行為要件は、先例としての意味も持ちます。AI企業とコンテンツ提供者の権利関係を規律した事例として、他の地域の議論に波及する可能性があるためです。いま直接の対象でなくても、追う価値はあります。
この章のまとめ
イギリス向けの実務は、計測の先取り・適用範囲の見きわめ・根拠の見せ方の3点に集約できます。
12イギリスのAI検索対策で、根拠の見せ方はどこまでやればいいんですか?
3点目の「根拠の見せ方」は抽象的に聞こえます。もう少し具体に落とします。
ここで言う専門性の明示は、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)と呼ばれる考え方に沿ったものです。誰が、どういう立場で、何を根拠に書いたのかが、ページ上で読者に分かる状態を指します。
イギリスの読者は、AIの答えを疑いながら見ています。答えから自社のページへたどり着いた読者が最初に見るのは、根拠です。
すべての記事を一度に直す必要はありません。イギリス向けに読まれている記事から順に、出典と書き手を足していくやり方で構いません。
この章のまとめ
根拠の見せ方とは、出典・書き手・計測方法がページ上で分かる状態のことです。イギリス向けでは優先度を上げる価値があります。
13よくある質問
イギリスにはAI検索を規制する専用の法律がありますか?
本稿執筆時点で、AI検索を名指しする専用の法律はありません。CMAがDigital Markets, Competition and Consumers Act 2024の権限を使い、Googleの検索サービスに個別の行為要件を課す形で対応しています。AIという言葉を使う法律が無いことと、規制が動いていないことは別だとお考えください。
AI Security Instituteは、AI検索の規制機関ですか?
いいえ。AI Security Instituteは、サイバー攻撃や兵器開発などの国家安全保障に関わるリスクを評価する研究機関です。AI検索の商慣行に直接関与しているのは、競争市場庁(CMA)です。名前にAIが入っているぶん混同されやすい点に注意してください。
イギリスのGoogle Search Consoleの生成AIレポートは、日本のアカウントでも使えますか?
イギリスのサイト運営者の一部から先行展開されています。日本を含む他地域への具体的な展開時期は、Google公式には明言されていません。イギリス向けのプロパティを持っている場合は、そちらで先に確認できる可能性があります。
CMAのパブリッシャー行為要件は、一般企業のサイトにも適用されますか?
当面の対象は、Googleとイギリスのニュース出版社の関係です。一般企業サイトへの直接適用は、本稿執筆時点で確認できていません。ただし、AI企業とコンテンツ提供者の権利関係を規律した先例として、他の地域の議論に波及する可能性があります。
イギリス向けのAI検索対策は、他の国と同じ内容でいいですか?
土台の部分は共通しますが、そのままの流用はおすすめしません。イギリスはGoogleが91.19%を占める一方、読者のAI回答への信頼度は6%と低い市場です。Google向けの整備に絞りやすい反面、根拠の見せ方の優先度を上げる判断が要ります。
14まとめ|イギリスから読む3つの論点
イギリスは、AI検索の設計そのものに規制が踏み込んだ市場です。担い手はAI安全性の研究機関ではなく、競争市場庁(CMA)でした。
日本企業がイギリスから学べるのは、個別の検索テクニックよりも、規制がAI検索の設計に介入し始めたという前例のほうです。
もう一度、イギリスから読む3つの論点
規制の担い手
AI検索の商慣行に条件を課しているのはCMA。AI Security Instituteではありません
市場の実測値
Googleが91.19%を占め、対策の対象は絞りやすい市場です
読者の受けとめ方
AI回答への信頼度は6%。根拠の見せ方が効きやすい市場です
AI検索では、こう聞かれています
イギリスにはAI検索を規制する法律がありますか?
「AI検索の専用法がないのに、イギリスで規律が効くのはなぜですか?」の章で、根拠になっている法律とあわせて説明しています
AI Security Instituteは、AI検索を取り締まっている機関ですか?
「AI安全性の研究機関は、イギリスのAI検索と何の関係があるんですか?」の章で、CMAとの役割分担を図で整理しています
イギリス向けのサイトで、AI検索対策として何を確認すればいいですか?
「日本企業がイギリス向けにやるAI対策は、どこから手をつけますか?」の章に、確認する3点をまとめています
次に読むなら、この記事です