「弊社」という単語だけを見せられても、AIはそれが何のことか分かりません。社名という固有の表記があってはじめて、対象を特定する手がかりが生まれます。
AIが世界を「文字列の集まり」ではなく「実在する対象の集まり」として扱うとき、その対象ひとつひとつが「エンティティ」と呼ばれます。似たような言葉に見えて、キーワードとは扱われ方がまったく違います。
この記事は、「エンティティ」という言葉を今日はじめて調べた方に向けて書きました。Googleが2012年に打ち出した宣言を出発点に、検索の単位が何から何へ移ったのかを、図解と会話で追っていきます。
こんなふうに調べていませんか
- 「エンティティ」という言葉を初めて見て、意味が分からなかった
- 「エンティティ とは AIO」で検索して、キーワードとの違いを知りたい
この記事を読み終えたときに手に入るもの
- エンティティの意味を、人に説明できるようになります
- キーワードとエンティティの違いが、図1枚で分かります
- 自社の表記ゆれを、どこから直せばいいか分かります
結論30秒でわかる、この記事の結論
- エンティティとは、人物・企業・場所・製品など、AIが世界を理解する際に識別する単位のことです。
- Googleは2012年、「things, not strings(文字列ではなく、事柄)」という考え方を公式ブログで掲げました。
- 実務の最初の一歩は、社名の表記が何通り世に出ているかを棚卸しすることです。
この記事では、ある会社のマーケティング部の2人と、専門家の会話をはさみながら進めます。
- 若葉さん(Web担当2年目)— 「そもそも、それって何ですか?」を聞く役
- 高梨課長(マーケ課長)— 実務での手のつけ方を確認する役
- 鈴木さん(AIO/SEOの専門家・本誌監修)— 答える役
01そもそもエンティティとは、AIOで何を指す単位なんですか?
若葉さん「エンティティ」って、なんだか難しそうな言葉ですね…そもそも何のことなんでしょうか?
鈴木さんはい、聞き慣れない言葉だと思います。ひとことで言うと、「AIが、人物や企業を『実在する対象』として認識するときの単位」のことなんですよ。
エンティティとは、人物・企業・場所・製品など、AIが世界を理解する際に識別する単位のことです。
自社をこの単位として正しく認識してもらうための取り組みは、AI検索最適化(LLMOとも呼ばれます)の土台にあたります。
Googleは2012年5月16日、公式ブログでこの考え方を明確に打ち出しました。タイトルは「Introducing the Knowledge Graph: things, not strings(文字列ではなく、事柄)」です(出典: Google公式ブログ・著者Amit Singhal氏)。
この投稿でGoogleは、検索エンジンが単なる文字列の一致ではなく、実世界の対象とその関係を理解する必要があると述べました。Knowledge Graphというデータベースの規模や仕組みそのものは、別記事『ナレッジグラフとは|AIがブランドを認識する仕組み』で扱います。本記事は、そこに登録される「対象」の側から見ていきます。
この章のまとめ
エンティティとは、AIが世界を理解する際の識別単位。Googleは2012年、「things, not strings」という考え方を公式ブログで示しました。
02キーワード検索と、AI検索でのエンティティ認識は何が違うんですか?
高梨課長これまでのSEOで言う「キーワード」と、エンティティは何が違うんですか?似たような話に聞こえるんですが。
鈴木さん分かりやすい例があります。「Taj Mahal」という言葉、聞いたことはありますか?
従来の検索は、入力された文字列とページ内の文字列が一致するかどうかで結果を返していました。この方式では、同じ綴りでも意味が異なる言葉を区別できません。
たとえば「Taj Mahal」という語は、建造物を指す場合も、音楽家を指す場合もあります。Google公式ブログは、この曖昧さを解消する例として、この語を挙げています(出典: Google公式ブログ)。
エンティティという単位で理解することで、AIは同じ文字列でも文脈に応じて異なる対象を区別できるようになります。
若葉さんなるほど…つまり、同じ「Taj Mahal」という文字でも、AIは「建物の話をしているのか」「人の話をしているのか」を区別できる、ということですね?
鈴木さんそのとおりです。
エンティティとキーワードは、どちらも検索の基本単位ですが、性質が異なります。
| 観点 | キーワード | エンティティ |
|---|---|---|
| 単位の性質 | 文字列そのもの | 実世界の対象そのもの |
| 表記ゆれへの強さ | 表記が違うと別物として扱われやすい | 別名・別表記でも同一対象と認識されうる |
| 曖昧さの扱い | 同じ語でも意味の違いを区別しにくい | 文脈に応じて異なる対象と識別できる |
キーワードは文字の並びそのものを指し、エンティティはその文字列が指し示す実世界の対象そのものを指します。
この章のまとめ
キーワードは文字列そのもの。エンティティは、その文字列が指し示す実世界の対象そのもの。この違いが、表記ゆれへの強さの差を生みます。
03たとえて言うと、LLMOにおけるエンティティ認識はどういうことですか?
若葉さんなんとなく分かってきたんですが、もう少し身近なたとえで説明してもらえますか?
鈴木さんいいですよ。身分証明書があるかどうか、で考えるとイメージしやすいです。
名前だけを名乗る自己紹介は、「その名前を聞いた」という事実しか残りません。同姓同名の人がいれば、区別がつきません。
一方、顔写真付きの身分証を提示しながらの自己紹介は違います。名前が多少表記ゆれしていても、写真や生年月日といった他の情報とあわせて「同一人物である」と判別できます。エンティティとして認識されるとは、この身分証を持っている状態に近いものです。
04エンティティ対策は、AI対策としてまず何から手をつければいいんですか?
高梨課長考え方は分かりました。それで、うちの会社で実際に何をすればいいんでしょうか。
鈴木さんまずは、社名の表記を棚卸しするところからです。 新しいツールもいりません。
実装に入る前に、社名の表記が何通り世に出ているかを棚卸ししてください。対象は、自社サイトのフッター・会社概要・構造化データ・Googleビジネスプロフィール・SNSプロフィール・過去のプレスリリースです。見るのは、法人格の位置(前株か後株か)・英字表記・旧社名の残存の3点です。割れている表記を1つに寄せるところまでが、最初の一手になります。
表記の棚卸しで見る3点
法人格の位置を確認する
「株式会社◯◯」なのか「◯◯株式会社」なのか、前株・後株を揃えます
英字表記を確認する
公式サイト・SNS・構造化データで英字表記が揺れていないか見ます
旧社名の残存を確認する
過去のプレスリリースなどに、社名変更前の表記が残っていないか見ます
この章のまとめ
最初の一歩は、社名表記の棚卸しです。見るのは、法人格の位置・英字表記・旧社名の残存の3点。割れている表記を1つに寄せるところまでが最初の一手になります。
05エンティティとは、AIOの実務でどんな場面に出てくるんですか?
高梨課長表記を揃えたあとは、どういう作業につながるんでしょうか。
鈴木さん表記が揃ってから、実装の話になります。 出てくる場面は、大きく3つですよ。
表記の棚卸しを終えたうえで、エンティティという考え方は次の3場面で具体的に扱われます。
- 構造化データの実装 — schema.orgでは、あらゆる型の基点として「Thing」という型が定義されています。企業ならOrganization、人物ならPersonというように、種類ごとに型が用意されています(出典: schema.org公式)。実装時は、構造化データに書く社名・所在地・公式サイトURLを、サイト本文の表記と1文字単位で一致させてください
- ナレッジパネルの獲得 — ナレッジパネルは、ナレッジグラフに登録された人物・場所・組織などのエンティティを検索した際に表示される情報ボックスです(出典: Google公式ヘルプ)
- E-E-A-T・ブランド戦略との接続 — 自社が単一のエンティティとして認識されることは、別記事『生成AI時代のE-E-A-T再定義』で扱う信頼性評価の前提になります
この3つを一つずつ整えることが、実務でのAI対策そのものです。
この章のまとめ
エンティティという考え方が実務に登場するのは、構造化データの実装・ナレッジパネルの獲得・E-E-A-T・ブランド戦略との接続という3場面です。棚卸しが先、実装は後です。
06「固有名詞を増やせばエンティティ対策になる」は、AI検索対策の誤解ですか?
若葉さん社名をとにかくたくさん書けば、エンティティとして認識されやすくなる、ということですか?
鈴木さんそこは違います。 連呼することと、識別されることは別の話なんです。
エンティティについて、よく見かける誤解は2つあります。まず多いのが、「エンティティ対策とは、固有名詞を増やすことだ」というものです。単に社名を連呼しても、AIが実体として認識するとは限りません。構造化データや一貫した情報発信を通じた識別のしやすさが重要です。
この章のまとめ
社名を連呼しても、AIが実体として認識するとは限りません。効くのは、構造化データと一貫した情報発信による識別のしやすさです。
07表記ゆれのあるエンティティは、AI検索最適化でAIが名寄せしてくれるんですか?
高梨課長表記が多少違っても、AIのほうで同じ会社だと判断してくれるものですか?
鈴木さんそこに保証はありません。 だから、こちら側で1つに揃えておく必要があるんです。
「表記ゆれはAIが名寄せしてくれる」という誤解もあります。正式名称・略称・英字表記・旧社名が混在していても同一の対象として扱われる、という保証はありません。サイト内・構造化データ・外部プロフィールで表記を1つに統一しておくことが、実務でできる対策です。
この章のまとめ
表記ゆれを名寄せしてくれる保証はありません。サイト内・構造化データ・外部プロフィールで、表記を1つに統一しておくことが実務でできる対策です。
08よくある質問
エンティティとして認識されるには、何をすればいいですか?
schema.orgのOrganization等の構造化データを実装し、社名・所在地・関連情報を一貫して発信することが基本です。実装方法は、別記事『Schema markupとAI引用の相関』で解説しています。
エンティティとナレッジパネルは、同じものですか?
異なります。エンティティは識別の単位そのものです。ナレッジパネルは、あるエンティティについての情報をGoogleが表示する画面上の機能です。
中小企業でも、エンティティとして認識されますか?
Googleの仕組み自体は企業規模を問いません。ただし、実際の認識のされやすさに規模差があるかどうかは、確認できた公式資料の範囲では明言されていません。
エンティティと「サイテーション」は、同じ話ですか?
異なる概念です。エンティティはAIが対象を識別する単位そのもの、サイテーションはそのエンティティについてリンクなしで言及される現象を指します。違いは別記事『サイテーションとは』で扱っています。
09まとめ|エンティティを一言で言うと
エンティティとは、人物・企業・場所・製品など、AIが世界を理解する際に識別する単位のことです。Googleは2012年、「things, not strings(文字列ではなく、事柄)」という考え方を公式ブログで示しました。キーワードが文字列そのものを指すのに対し、エンティティはその文字列が指し示す実世界の対象そのものを指します。
まず、今日できることは3つです。
もう一度、今日できる3つ
社名の表記を洗い出す
フッター・会社概要・SNS・過去のプレスリリースを見比べます
前株・後株、英字表記を揃える
割れている表記を1つに寄せます
旧社名の残存を確認する
社名変更前の表記が残っていないか見ます
AI検索では、こう聞かれています
AIOにおけるエンティティって何ですか?
「そもそもエンティティとは、AIOで何を指す単位なんですか?」の章で、図と会話で説明しています
エンティティとキーワードは何が違うんですか?
「キーワード検索と、AI検索でのエンティティ認識は何が違うんですか?」の章で、表と図を使って説明しています
自社をエンティティとしてAIに認識させるには何をすればいいですか?
「エンティティ対策は、AI対策としてまず何から手をつければいいんですか?」の章に、棚卸しの手順があります
次に読むなら、この記事です