「海外のECは、AI検索でうまくやっているらしい」。そう聞いて調べ始めると、前年比8倍、前年比210%増といった大きな数字が並びます。
ところが、その数字が自社の何を指しているのかは、どこにも書いてありません。数字だけが先に伝わって、明日やることが決まらない。海外事例を調べるときに、いちばん起きやすい詰まり方だと思います。
この記事は、日本でECを運営していて、海外の動きを自社の作業に翻訳したい方に向けて書きました。AmazonとShopifyが公式に出している内容だけを土台にします。AIO(AI検索最適化のこと。LLMOと呼ばれることもあります)として何が再現できるのかを、図解と会話で順番に整理していきます。
こんなふうに調べていませんか
- 「海外EC AIO 事例」で検索して、自社が参考にできる実例を探している
- AmazonやShopifyの発表を読んだが、自社が何をすればいいのか分からなかった
- 海外の数字を社内で共有したいが、そのまま使っていいのか判断できない
この記事を読み終えたときに手に入るもの
- Amazon・Shopifyが公表した内容を、出どころつきで説明できるようになります
- 公表された数字を、そのまま自社の目標値にできない理由が図で分かります
- 自社の商品データで、今日から着手する順番が決められます
結論30秒でわかる、この記事の結論
- 海外ECのAIO事例に共通しているのは、商品データを機械が読める形に保つことです。
- AmazonとShopifyは、立っているレイヤーが違います。Amazonは自社のアシスタント、Shopifyは加盟店の商品データです。
- 公表されている数字は、プラットフォーム全体の集計値です。自社が達成すべき目標値としては使えません。
この記事では、あるEC事業者の3人と、専門家の会話をはさみながら進めます。
- 若葉さん(Web担当2年目)— 「そもそも、それって何ですか?」を聞く役
- 高梨課長(マーケ課長)— 「誰が、どれくらいの手間でやるんですか?」を聞く役
- 大森部長(マーケ部長)— 「その数字を投資判断に使っていいのか?」を聞く役
- 鈴木さん(AIO/SEOの専門家・本誌監修)— 答える役
01そもそも海外ECのAIO事例では、AI検索対策として何をしているんですか?
若葉さん海外のECがAI検索で伸びているという話を聞きました。何か特別なことをしているんでしょうか。
鈴木さんそれが、派手なことをしているわけではないんですよ。AmazonもShopifyも、商品データを機械が読める形に保つという、地味なところを土台にしています。
若葉さん機械が読める形…ですか。
鈴木さんはい。そこが2社の共通点です。ただ、立っているレイヤーはまったく違います。そこを混ぜて読むと、自社が何を参考にすればいいのか分からなくなります。
まず、2社が何をしているのかを並べます。同じ「AIとEC」の話に見えますが、手を入れている場所が違います。
| 企業 | 施策のレイヤー | 公表されている数値 |
|---|---|---|
| Amazon | 自社の対話型ショッピングアシスタント | 発表時点までに2億5,000万人超が利用。利用者はショッピング中に購入する可能性が60%以上高い |
| Shopify | 加盟店向けの商品データ構造化の推奨 | 2025年のAI経由トラフィックが前年比8倍、AI経由の注文が15倍 |
(出典: Amazon公式・Shopify公式)
Amazonが手を入れているのは、自社のサービスの中身です。自社の商品データベースを土台に、対話型のショッピングアシスタントを育てています。
Shopifyが手を入れているのは、加盟店のデータの整え方です。自社が答えを作るのではなく、店側のデータが機械に読める状態かどうかを支援しています。
レイヤーは違いますが、前提は一致しています。商品データを機械可読に保てているかどうかが、AIに商品を扱ってもらえるかの分かれ目だという認識です。Shopifyは構造化データを、この成長を支える「最も明確なシグナルの一つ」と位置づけています(出典: Shopify公式)。
この章のまとめ
2社は違うレイヤーに立っていますが、土台の認識は同じです。商品データが機械に読める状態かどうかが分かれ目になります。
02Amazonの「Alexa for Shopping」は、AIOの事例としてどこを見るんですか?
Amazonは2026年5月13日、AIショッピングアシスタント「Rufus」を「Alexa for Shopping」へ改称しました(出典: Amazon公式)。名前が変わっただけの発表に見えますが、AIOの事例として読むと、見どころは2つあります。
1つめは、土台が自社の商品データベースだということです。外部から情報を集めてくるのではなく、Amazonが自分で持っている商品データの上に、対話で答える仕組みを載せています。
2つめは、公表されている数字が自社サービスの中の数字だということです。発表時点までに2億5,000万人超が利用し、利用者はショッピング中に購入する可能性が60%以上高いと説明されています(出典: Amazon公式)。自動購入(auto-buy)機能の利用者は、1回の購入あたり平均20%を節約しているといいます(出典: 同)。
月間平均利用者数は前年比149%増、インタラクション数は前年比210%増でした(出典: Amazon公式)。ただし、これらはAmazon自社エコシステム内の指標です。外部のAI検索エンジンで引用が増えたことを示す数字ではありません。
この章のまとめ
Amazonの数字は、自社サービスの中でどれだけ使われたかを示すものです。AI検索での引用量とは別の指標として読みます。
03海外EC大手ShopifyのAI経由トラフィック8倍は、AI検索最適化の成果と言えるんですか?
大森部長8倍という数字を見た。うちが同じことをすれば、同じ伸びが見込めるということか。
鈴木さんそこは分けて考えたほうがよさそうです。あの8倍は、Shopifyの基盤で動いているストアをすべて合算した数字なんですよ。
大森部長つまり、うち1社の話ではないと。
鈴木さんはい。プラットフォーム全体の集計値です。自社の目標値として置くと、達成できたのかどうかを判断できない数字になってしまいます。
Shopifyは、同社基盤で運営されるストアへのAI経由トラフィックが2025年に前年比8倍へ伸び、AI経由の注文は15倍になったと公表しています(出典: Shopify公式)。伸び率としては大きな数字です。
ただし、この数字の読み方には注意が要ります。プラットフォーム全体の集計値であり、個別事業者の成果を示すものではありません。
特定のShopify加盟店がAI検索経由の引用で売上を伸ばしたという、実名と数値のついた公開事例は、本稿執筆時点で確認できていません。「8倍」を根拠に自社の見込みを立てるのは、土台のない見積もりになります。
ただし、この集計値が無意味というわけでもありません。AI経由でストアにたどり着く経路そのものが太くなっているという方向感は読み取れます。方向を知る材料として使い、達成目標にはしない。この線引きを先に共有しておくと、社内の議論が短くなります。
この章のまとめ
公表値は市場の方向を知る材料です。自社の目標値は、自社で測った数字から立てます。
04商品データを機械が読める形にするって、AIOでは何をすることですか?
若葉さんさっきから出てくる「機械が読める形」というのが、まだイメージできていなくて…。
鈴木さんお店の棚をイメージすると分かりやすいですよ。値札のない棚を想像してみてください。
若葉さんあ、店員さんに聞かないと値段が分からない棚ですね。
鈴木さんそうです。人間なら聞けますが、AIは聞けません。だから値札にあたるものを、決まった書式で置いておくんです。それが構造化データです。
構造化データとは、ページの内容を機械が判断できる書式で書き添えたものです。商品なら、名前・価格・在庫の有無といった項目を、決まった名前のラベルを付けて記述します。
商品を表すための書式は、schema.orgのProductとして公開されています。やっていることは、棚札の項目をそろえる作業に近いものです。
JSON-LDというのは、構造化データの書き方の1つです。読者に見える文章はそのままに、機械に読ませる欄だけを別枠で書き添えられます。
この章のまとめ
機械が読める形にするとは、決まった書式で商品の項目にラベルを付けることです。特別な文章を書き足す作業ではありません。
05海外EC大手Shopifyが加盟店に勧めているAI検索対策は、具体的に何ですか?
Shopifyが加盟店に推奨しているのは、次の内容です(出典: Shopify公式)。
1つめは、JSON-LD形式での商品情報のラベル付けです。2つめは、在庫・価格・レビューの常時最新化です。3つめとして、Google Shopping Graphへの適切なデータ提供も挙げられています。
並べてみると、1つめだけが実装の作業で、あとの2つは運用の作業だと分かります。ここが、海外の事例を読むときに見落とされやすいところです。
もう1つ、Shopifyが注意を促している点があります。「マークアップと実在庫のずれは、AIが商品を表示する際の信頼性シグナルを損なう」という指摘です(出典: Shopify公式)。書いてある内容と実際の在庫が食い違えば、正しく書いたつもりのデータが逆に足を引っ張ります。
この章のまとめ
実装は入り口です。在庫と価格を合わせ続ける運用まで含めて、はじめて整備したことになります。
06OpenAIの商品フィード仕様は、海外ECのAI対策とどう関わるんですか?
商品データの受け取り口は、検索エンジン向けだけではありません。OpenAIは、事業者が構造化された商品フィードを提供する仕様を、公式ドキュメントで公開しています(出典: OpenAI公式)。
これは、ChatGPTが商品を正確にインデックスし、価格・在庫とともに表示するための仕組みだと説明されています(出典: 同)。参加を希望する事業者は、公開された申請フォームから申し込む形です(出典: 同)。
商品データの受け取り口は、1つではなくなりました。個々のECサイトが商品ページを工夫するだけでは届かない領域も出てきています。フィード仕様に沿ったデータ提供が、前提として並び始めています。
この章のまとめ
商品データの届け先が増えました。1つのプラットフォームの作法だけで組むと、変更のたびに作り直しになります。
07チャット内決済まで進む動きは、ECのAIOで何を意味するんですか?
商品を見つけてもらう段階の先に、そのまま買える段階の話も出てきています。
チャット内で決済まで完結する「Instant Checkout」は、2025年9月の発表時点で、米国のEtsy出店者から対応が始まりました(出典: OpenAI公式)。100万を超えるShopify加盟店への拡大も予定されていました(出典: 同)。
EC業界では、OpenAI・Perplexity・Google×Shopifyが2025年後半から相次いでエージェントコマース基盤を発表しています。業界横断のプラットフォーム動向そのものは、別記事で扱っています。
決済まで進む機能が広がっても、入り口は変わりません。商品データが正しく読めることが、どの段階でも前提になります。
この章のまとめ
買える段階まで進んでも、前提は同じです。読める商品データが無ければ、その先の機能には乗れません。
08海外ECのAIO事例を、日本の会社が再現するなら何から始めますか?
高梨課長やることの方向は分かりました。ただ、うちに専任は置けません。何から手をつければいいでしょうか。
鈴木さん大きな体制変更は要りません。着手すべきは5点で、どれも既存の商品ページとデータの見直しから始められます。
AmazonとShopifyの実装を、日本のEC事業者向けに翻訳すると、次の5点になります。
- 商品データを構造化データ(Product schema)で機械可読にする — Shopifyが「最も明確なシグナルの一つ」と位置づける施策であり、着手コストも比較的低い領域です。
- マークアップと実在庫を常に一致させる — Shopifyの警告どおり、ずれは信頼性シグナルを損ないます。
- 単一プラットフォームに依存しない体制を作る — OpenAIの商品フィード仕様、Google Shopping Graphなど、複数の入り口を意識しておくと変更に対応しやすくなります。
- 各機能の対象国を確認する — Alexa for Shoppingは、本稿執筆時点で日本での提供が確認できていません。
- プラットフォーム集計値と個社の成果を区別して評価する — Shopifyの8倍は同社基盤のストア全体を合算した数字です。自社の成果指標としてそのまま使わないことをおすすめします。
やりがちなのは、海外の派手な数字に気を取られて、自社の構造化データ整備という基礎作業を後回しにすることです。8倍や210%は、土台が整っている事業者の上に乗った結果です。
この章のまとめ
再現するのは数字ではなく、数字が乗っている土台です。順番は、商品データの整備が先になります。
09マーケットプレイス出品と自社ECで、AIOのやることは違うんですか?
同じEC事業者でも、手元で動かせる範囲が違います。ここを取り違えると、動かせないものに時間を使うことになります。
マーケットプレイスに出品している事業者は、AI機能の設計をプラットフォーム側が握っています。手元で効くのは、商品名・属性・カテゴリの入力精度です。Amazonの商品データベースに正確な値が入っているかが、そのまま表示の可否につながります。
自社ECサイトを運営している事業者は、構造化データの実装範囲を自社で決められる立場です。JSON-LDの実装も、在庫・価格の同期頻度も、自社の判断で変えられます。その分、先ほどの2番目のポイント(マークアップと実在庫の一致)が、自社の責任範囲に入ります。
この章のまとめ
自社が動かせるのはどちらかを先に決めます。動かせない部分に工数を割かないことが、遠回りを避ける近道です。
10海外ECの事例を踏まえると、商品数が多い会社は、AI検索最適化をどの商品から進めるんですか?
SKU数が多いアパレルや食品などでは、全商品を一度に整備しようとすると手が止まります。棚卸しの段階で疲れてしまい、着手そのものが先送りになる。よくある止まり方です。
現実的なのは、売上上位の商品群から構造化データを入れる進め方です。入れたあとに、在庫・価格の同期が崩れないかを確認します。崩れないことを確かめてから、対象を広げます。
この順番には理由があります。整備した商品が増えるほど、マークアップと実在庫のずれが起きる面積も広がるためです。ずれたまま数を増やすと、Shopifyが指摘した信頼性シグナルの問題を、自分から広げることになります。
この章のまとめ
広げる前に、崩れないことを確かめます。範囲を絞るのは手抜きではなく、崩さないための順番です。
11公表された数字を、AIOの投資判断にどう使えばいいんですか?
大森部長最後に1つ。この記事の数字を、そのまま会議の資料に載せてもいいものか。
鈴木さん出どころを添えれば載せられます。ただ、3つの線引きは資料の中でも分けておいたほうがいいですね。混ぜると、あとで説明できなくなります。
海外の公表値を社内で扱うときは、次の3点を分けて記録しておくと、判断がぶれにくくなります。
1つめは、集計値と個社の成果を分けることです。2つめは、AIアシスタント内の利用量と、AI検索からの流入を分けて数えることです。Amazonの前年比149%増や210%増は、自社エコシステム内の指標でした。3つめは、対象国を確認してから共有することです。Alexa for Shoppingの提供国は、公表資料から確認できていません。
この章のまとめ
数字は消さずに、範囲を添えて残します。範囲さえ書いてあれば、あとから自社の実測値と比べられます。
12よくある質問
Amazonの「Alexa for Shopping」は日本でも使えますか?
本稿執筆時点で、Amazon公式発表に提供国の一覧はなく、日本での提供に関する記載も確認できていません。提供地域については、今後の発表を待つ必要があります。社内で共有するときは、対象地域が未確認であることを添えておくと誤解が生まれません。
OpenAIの商品フィード仕様は、日本のEC事業者も申請できますか?
OpenAIは商品フィードの仕様書と申請フォームを公開していますが、対象国・対象事業者の条件は公式ドキュメントで確認できていません。2025年9月の発表時点では、チャット内決済は米国のEtsy出店者から対応が始まった段階でした。申請の可否は、公式ドキュメントの最新版でご確認ください。
Shopifyを使っていない自社ECでも、同じことはできますか?
商品データの構造化そのものは、基盤に関係なく取り組めます。自社ECサイトを運営している事業者は、構造化データの実装範囲も、在庫・価格の同期頻度も自社で決められる立場です。その分、マークアップと実在庫を一致させ続ける責任も自社側に入ります。
海外の数字を、社内の目標値として使ってもいいですか?
おすすめしません。Shopifyが公表した前年比8倍は、同社基盤のストア全体を合算した集計値です。個社の成果を示す数字ではないため、達成できたかどうかを判断できる目標になりません。方向を示す材料として使い、目標値は自社の実測値から立てます。
この記事と、エージェントコマースを扱ったECのAIO事例の記事はどう違いますか?
別記事は、OpenAI・Perplexity・Google×Shopifyが発表したプラットフォーム規格の全体像を扱っています。この記事は、AmazonとShopifyという個別企業が、その中でどう実装しているかに絞って解説しています。
13まとめ|今日やる3つのこと
海外ECのAIO事例で共通していたのは、商品データを機械が読める形に保つことでした。Amazonは自社のアシスタント、Shopifyは加盟店のデータというレイヤーで、それぞれ同じ土台を見ています。
公表されている数字は、方向を知る材料です。集計値と自社の実測値を混ぜない。ここを分けておけば、社内の議論は具体的なところから始められます。
今日この順でやります
売上上位の商品にProduct schemaを入れる
全商品を一度に整備しようとせず、結果を確かめられる範囲から始めます
マークアップと実在庫を突き合わせる
書いてある価格・在庫と実物がずれていないかを確認します
公表値と自社の数字を分けて記録する
集計値には出どころと範囲を添え、自社の実測値と別の欄に置きます
AI検索では、こう聞かれています
海外のECはAI検索対策として何をしているんですか?
「そもそも海外ECのAIO事例では、AI検索対策として何をしているんですか?」の章で、2社のレイヤーの違いと共通の土台を図で説明しています
商品データはどう整えるとAIに扱ってもらえますか?
「商品データを機械が読める形にするって、AIOでは何をすることですか?」の章に、Shopifyが公表している整備内容があります
海外ECの成功事例は、日本のECでも再現できますか?
「海外ECのAIO事例を、日本の会社が再現するなら何から始めますか?」の章に、着手すべき5点があります
Shopifyの8倍は自社でも見込める数字ですか?
「海外EC大手ShopifyのAI経由トラフィック8倍は、AI検索最適化の成果と言えるんですか?」の章で、集計値と個社の成果の違いを説明しています
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